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第11話『オッサン、荷馬車に揺られる』


「ゴードン様、失礼いたします!」


 大陸各地から送られてきた魔術師団の報告書に目を通していると、執務室の扉を開けて一人の団員が姿を見ませました。


「なんですか。騒々しい」


「申し訳ございません。先日、ホルトの街で見つかった魔導書についてのご報告です」


「ああ……回収作業が終わりましたか」


「は、はい。無事に回収はできたのですが……」


 私に魔導書を手渡すも、彼は歯切れの悪い言い方をします。


「なにか問題でも?」


「その……回収作業中、野良の魔術師と遭遇しまして」


「ほう。この時代にまだ野良がいたのですか。当然、駆除したのですよね?」


「そ、それが……取り逃がしてしまいました」


「なんと……私を失望させないでください」


「で、ですがその者は、その魔導書に記された魔法を即座に習得し、使ってみせたのです」


 彼は身振り手振りを交え怯えた様子でそう口にします。


「……野良の魔術師がそんな所業を?」


「はい。加えて、その場で英雄マチルダを見たという団員もおりまして……」


「ふむ……彼女は長いこと表舞台から姿を消していたはずですが」


「私も報告を聞いただけですので、真偽は定かではありません」


「そうですか……それならば、こちらでも調査をしてみましょう。すぐには無理でしょうが、状況によっては騎士団にも動いてもらえるように手配します」


「お心遣い、痛み入ります」


「構いませんよ。あなたたちは今までと同様、職務に励みなさい」


 そう伝えると、彼は一礼して執務室から出ていきました。


 扉が静かに閉められたあと、私はため息をつきます。


 野良の魔術師とやらも気になりますが、英雄マチルダ……どうして今頃になって彼女が動き出したのでしょう。


 ……これは、本腰を入れて調べる必要がありそうですね。


 ◇


 ……図書館での調べ物を終えた翌日。俺たちは荷馬車に揺られていた。


 マチルダいわく、ホルトの街いた幽霊を成仏させたことで、死者の羅針盤が新たな場所を示したらしい。


「この街道の先には寂れた港しかなかったはずだが、そこから船にでも乗るのか?」


「いや、羅針盤が指し示しておるのは、その手前の森じゃな」


 なぜか俺の膝の上に頭を乗せているマチルダに尋ねると、彼女は手元の羅針盤を見ながらのんびりとした口調で言った。


「あの森には、知り合いの錬金術師も住んでおる。魔術師団の一件もあるし、しばらく身を隠しつつ、顔を見せてやってもいいかもしれんな」


「ところでマチルダ、その錬金術師とやらは、どんな奴なんだ」


「飽き性な奴じゃ」


「飽き性?」


 疑問に思って尋ねると、そんな言葉が返ってきた。


「元はわしと同じ僧侶じゃったが、20年ほどでやめてしまい、それから詩人を20年、調香師を20年、医者を20年……と、職を転々とし、ここ100年くらいは錬金術師をやっておる。錬金術は長続きしているほうじゃ」


 マチルダは呆れたふうに言うも、全然飽き性じゃないと思う。どの職業も、人間だと玄人のレベルだろう。


「エルフ族ってことは、そいつもマチルダみたいに小さいのか?」


「いや、エリッタは触り心地のいい豊満な体をしておるぞ。背もわしよりずっと高い」


「そ、そうか」


「変な気を起こすでないぞ。あやつの体を触っていいのは、先輩僧侶であるわしだけじゃからな」


 なるべく感情を殺して言うも、マチルダはニヤついた顔で俺を見上げてきた。


「冗談じゃ。エリッタは男性恐怖症じゃし、下手に触ろうものなら錬金釜で殴られるぞ」


 反応に困っていると、最後にそう付け加えてマチルダは笑う。


 ……待て。男性恐怖症? それ、俺が会いに行って大丈夫か?


「……話が聞こえたんですが、お兄さんたち、銀狼(ぎんろう)の森に行くんですかい?」


 俺が首を傾げていると、荷馬車の手綱を引いていた男性が声をかけてきた。


「銀狼の森だと?」


「ええ、あの森には狼の姿をした巨大な魔物が住んでいるって噂ですよ」


「問題ない。アルはボディーガードを兼ねておる。その気になれば、森ごと焼き払えるぞ」


 俺を指差しながらマチルダは言うも、操舵手はなんとも言えない顔をしていた。


 頼ってくれるのは嬉しいが、できることならそんな魔物とは出会いたくないな。


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