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第10話『オッサン、調べ物をする』


 そんな騒動の翌日。俺はマチルダとともに街の図書館へ足を運び、アルバート魔術師団について調べることにした。


「とは言ったものの……どこから手を付けるべきか」


 目の前にそびえ立つ本棚の塔を前に、俺は完全に気圧されていた。


 この中から関連書籍を探し出すだけで、一苦労だぞ。


「……ふむ、この辺りなどいいのではないか?」


 そんな矢先、マチルダは『近代魔法史』という本を持ってきた。


「へぇ、おあつらえ向きの本があるじゃないか」


「そうじゃろそうじゃろ。さっそく読もうではないか」


 その本を受け取って席につくと、マチルダは弾むような口調で言い、ためらうことなく俺の膝に乗ってきた。


「……おいこら、なんで俺の膝に座る」


「どうせ一緒に読むのじゃし、このほうが楽ではないか。ほれ、おしゃべりは終わりじゃ。図書館では静かにせねばな」


 マチルダは澄まし顔で言うと、まったく気にすることなく本を開いた。


 ……その後、いくつかの本の内容をまとめたところ、今から180年ほど前、当時のカヌラーン王の命令で作られた魔法監理団体がアルバート魔術師団の原型ということがわかった。


「カヌラーンっていうと……あの偏屈(へんくつ)王子か?」


「そうじゃの。今思い出したが、奴が王の座についた時、もっともらしい理由をつけて魔法の取り締まりと魔術師狩りを始めたのじゃ。このまま魔法の力を野放しにすれば、いずれ新たな争いの火種になる……とな」


「なるほどねぇ……」


 マチルダと小声でそんな会話をしつつ、俺は200年前に出会った王子のことを思い出していた。


 奴は大の魔法嫌いで、勇者パーティーの一員として謁見した時も、魔術師である俺を散々見下してきた記憶がある。


 かつて、魔法の暴走で恋人を失ったと聞いていたし、そいつが王になり、なんやかんや理由をつけて魔法を取り締まった……なんて状況も、容易に想像できる。


「それから現代に至るまで、魔法はその組織によって管理され続けているわけか」


「そのようじゃの。アルバート魔術師団という名前も、歴代最強の魔術師であるお主の名にあやかって、後年になってつけられたようじゃ」


「俺が死んでいる間に、人の名前を勝手に使いやがって……」


 椅子の背にもたれ、俺は天井に向けて息を吐く。


「書物によると、組織ができた直後から、魔術師たちは国の管理下に入ることを強制されたようじゃし、お主の銅像が壊されていた理由も説明がつくの」


「どういうことだ?」


「考えてもみい。国から魔法を取り締まられた魔術師たちは、自由を犠牲にして国の配下となるか、廃業するしかなかったじゃ。怒りの矛先が組織と同名の魔術師の像に向くこともあったかもしれん」


「そういうことか……俺が言うのもなんだが、魔術師ってのは変わり者が多いからな。魔法はそんな奴らが扱うからこそ進歩していたんだ。国なんかが管理してりゃ、衰退して当然だ」


 含み笑いを浮かべるマチルダを見ながら、俺は思わず吐き捨てる。


 魔法が取り締まられた世界なら、中級レベルの魔導書が貴重と言われていたのも納得だった。


「しかし、魔術師団に入っていれば魔法は教えてもらえそうなものだがな。昨日戦った連中、初級魔法しか使ってこなかったぞ」


「組織内のことはよくわからぬが、下っ端はその程度の魔法しか習わぬのではないか? 魔法が世に普及していない時代なら、初級魔法だけで十分じゃろ?」


「それはそうかもしれないがな……ええい、知れば知るだけ腹が立つ。攻撃するだけが魔法じゃないんだぞ」


 ため息とともにそう口にし、少し乱暴に本を閉じる。


「そういえば、お主はよく干ばつ地帯に雨を降らせておったの」


「まあな。他にも地属性魔法で大地を元気にして、作物が育ちやすいようにしてやったりな」


「記録を読む限り、今はその手の魔法も廃れておるようじゃの。だからこそ、素材から肥料を作り出せる錬金術が広まったのじゃが」


「そんな見方もできるんだろうが……やっぱり、魔術師としては納得がいかないぞ。本来、魔法は人々を幸せにするためのものだ」


「お主は、幽霊になってもやはり魔術師よの」


 思わず語気を強めると、マチルダはなんとも言えない笑顔を向けてきた。


「ならば今後、旅先で魔法を使って人々を救済してみてはどうじゃ。魔術師団の影響で魔術師の評判は地に落ちているようじゃし、汚名の返上にも繋がるじゃろ」


「可能だとは思うが……そんなことして大丈夫か?」


「ま、十中八九、魔術師団の連中が黙っておらんじゃろうな」


「やっぱ、そうなるよな……その時は、返り討ちにするしかないか」


「言うの。さすが最強の魔術師じゃ。頼りにしておるからな」


 そう言った直後、マチルダは背中を預けてくる。


 その小さな体を見下ろしながら、俺は新たな目標ができたことを嬉しく思ったのだった。



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