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第3話 出発に向けて

聖暦1795年3月 八幡皇國 筑羽(ちば) 亀寿かめじゅ


ニシア・マシューバル達は、誘拐されたキューナーの救出する為に、山梨善一郎やまなぜんいちろうを含む山梨家家臣と共に豊島でじまへと赴く準備をしていた。

エリザ帝国からの者達は、身の丈に合った八幡やはたの服はを用意してもらい。

持ってきた服などは、各々のカバンに固めて馬の背に積むことにした。

エリザ帝国側からは、当初マキシム・ザウバーとサディアだけの予定であったが、ニシアも同行を懇願したことで、3人の異国人が同行することとなり、7人にて鼎国ていこくの者達を追うことになった。

7人は、まず山梨館やまなやかたにて八幡皇國やはたこうこくと筑羽の地図を確認して、門花団もんかだんがどこに向かっていったかを検討していた。

「あやつらが飛んでいった方向から考えて、『千田せんだ』の港から船で『豊島でじま』に向うだろうと考えられる」

善一郎が地図を指しながら門花団の行き先を予想して話す。

善一郎が指したコースは、豊島に向かう最短ルートであり、八幡皇國の人間であれば1月掛からずに迎えるだろう。

「若。私が戻る道中にて、大人数の鼎人を見ておりません。それに、その道には多くの関が設けられておりますから、下手に通ることが出来ません」

地理に明るい奇抜が善一郎のルートを否定するように説明する。

「ならば奇抜きば。おぬしならどこを通ると思う?」

「そうですな。彼らは、かなりの大所帯で、鼎の人間ばかりです。私なら、この地域に明るく、幕衆の影響を受けていない者に接触することでしょう」

「幕衆の影響を受けていない者?そのような奴が、この筑羽に居るかね?」

善一郎の疑問に奇抜は、筑羽の地図を指さして答える。

「かつて亀寿を統治しており、多くの財を自身の懐に貯めていた豪将」

若狭家わかさけが手を貸すと申すのか!」

善一郎と美山藤次郎みやまとうじろうが驚いた口調で奇抜に問う。

「なんなのですか?その、ワカサって人は」

「30年前まで、この地域にを納めていた領主で、強者集団『郎蛇党じゃろうとう』を指揮する頭領でもあった男だよ」

亀寿郡は、筑羽の中でも豊かな郡であり、2つある港の一つを有していた。

この郡内を長らく統治していたのが「若狭家」である。

若狭家は、どの当主も腕利き集団を抱えており、最後の当主だった「隆信たかのぶ」の下にいたのが「郎蛇党」であった。

若狭と郎蛇党は、地方の民衆反乱や野盗討伐などに多大な功績を挙げていたが、素行の悪さと税の横領が発覚してしまい、郡内から追われて菩提寺である「海燕寺かいえんじ」にて蟄居することになった。

しかし、配下にいた郎蛇党は、後任の山梨に仕えるのを嫌い、殆どが野盗や浪人として生活している。

「最後の当主隆信が5年前に死去したのですが、嫡男を含む一派が筑羽の国の何処かに潜伏しているという情報もありますので、可能性の範疇とはいえ、ありえる話かと」

奇抜の話を聞いた善一郎と美山は、厄介そうな顔をしていた。

「仮に、そのワカサとかいう奴らが力を貸したら、どのくらい厄介なんですか?」

マキシムが奇抜に向かって問いかける。

「現在残る郎蛇党は、100名ほど。内30名は国内におり、後の者達も各地にて活動しているとのことです。頭目は、武田三郎太たけださぶろうたという蛇人です」

「・・・・」

奇抜が詳細を話しているのを不思議な顔で見つめているエリザ帝国の一同に不思議な顔を返す八幡皇國の一同。

しばらくの沈黙の後に善一郎が口を開く。

「もしかして、私どものような者達と会うのは、始めてでいらっしゃった感じですか?」

「亜人は、よく見ておりましたが、話していく感じで、また違う種という者なのかと思いまして」

ニシアが善一郎達に打ち明けると、彼は笑って返した。

「それもそうですな。この八幡以外で我らのような種を見る事などほぼ無いのですから」

善一郎が笑うのをよそにニシア達は、呆気取られていると美山が横から離してくれる。

「我ら八幡に住まう者達は、永久の昔に流れ着いた『魔軍まぐん』とこの八幡に住まいし人間の混血種なのであります」

「魔軍の残党!」

サディアが慌ててマキシムのサーベルを奪い抜こうとするも、彼の手で止められる。

「魔軍なんて、500年前に赴いた大陸での話か、聖書に出てくる神々の時代の話でしか聞いたことがございませんわ」

ニシアが驚くのも無理は無い。

彼女ら生まれ育ったエリザ帝国を踏まえた「文明圏ぶんめいけん」は、今の聖暦を示す前までは、大陸内にて、人類種族と称する「聖軍せいぐん」と非人間族である「魔軍」との間で生存戦争を繰り返していた。

結果として、魔軍の多くは地表より消え、知恵なき魔物以外は、東へと追いやられる形になった。

聖軍は、これを人類種族勝利として堅持し、新たな時代とする暦「聖暦」と示したのである。

「あなた方が称する魔軍の一派である女神『ミカリヒト』と呼ばれていた者が率いる軍団は、この地に住まう『八幡守やはたのかみ』を制圧して、新たな拠点としようとした。しかし、八幡守を一目見たミカリヒトは、その優しくも勇ましい立ち振る舞いに繊維を削がれてしまい、命令を無視して彼の地にとどまり続けてしまった。その後に2人のもとには新たな命が育まれ、魔人両方から祝われることになった。だが、命令に従わなかった彼女を時の魔王が許す訳もなく、八幡に向けて大軍を繰り出し、押しつぶそうとした。ミカリヒトと八幡の軍は、この攻撃を幾度と押し返し、八幡守も治療や彼女のそばで戦うなどの活躍をしていた。そんなある日、魔王が人の軍勢滅ぼされた事を知った八幡者達は、大いに安堵して彼らの子達共に2人のもとへ祝を述べにいった。しかし、彼らがその場に残ることは無く、体を捨て雲塀うんぺいを創ったという話が伝わっております」

美山が八幡皇國に伝わる伝承を話すとサディアとマキシムは、驚いた表情で座り込み、ニシアは涙ぐむ顔で聞き入っていた。

「遥か昔の話です。ところで、先の話に戻りますが」

「ちょっと待ちなさい!頭が追いつかないから少し間を空けてちょうだい」

「そうですね。今日すぐに出発するのではありませんし、行く先を決めてから出るとしましょう」

善一郎がそう言うとサディアは、だらし無くその場で倒れ込み、ニシアは、美山達が語る昔話を聞き入っていた。


キューナー救出の話をしている山梨の舘から山をいくつか越えた先にある朽果てた寺院。

ここに、蘭伯灑らんはくきらの一団は、とある者との接触を図っていた。

「ここにいるんだろう。刺殺さないから出てきなさいな」

「蘭伯様。本当にここであっているんですか?」

横につく門花団員が、キョロキョロと周囲を見ながら、付いていくと不意に首元に冷たいものを感じ止まる。

「よそ者。何しに来た」

「落ち着かれよ若狭の者共よ。私は、あの方の協力者だ」

「鼎国の者が?フン。笑わせるな」

蘭伯のことを嘲笑う怪しげな者達に彼女は、自身がつけている首飾りを見せつける。

「その首飾りは!」

「納得してくれたかしら?」

刃を向ける者達は、2、3歩下がってから彼女たちの空間を作る。

「本当に来るとはな。殆ど戯言として聞いていたのに」

荒れ寺の奥にある祭壇にて腰を下ろす男が蘭伯に向かって笑いながら出迎える。

「武田三郎太殿。悪ふざけは、よしにしかいかね」

「生憎だったな。俺は、武田のジジイなんかじゃない」

そう言って窓の隙間から延びる光に顔が照らされる。

「あんたは・・・・いったい何で」

「ようこそ!八幡皇國へ」

その男は、高笑いをしながら蘭伯達を出迎えて来る。

彼こそ今は亡き若狭家の当主である若狭勝信わかさかつのぶである。

「武田殿は、どうなされたのですか」

蘭伯の問いに若狭は、見下したような顔で彼女の顔に近づくと、クスクス笑いながら、答える。

「あのジジイは、私に昔の父みたいなことをしろと説教してきたのでな、腹立たしかったから、大鴉の餌にしてやったのよ」

あまりに狂った言い分に呆れ返る蘭伯に若狭は、真顔に戻って話を続ける。

「安心なされよ。軽い戯言じゃ。武田殿は、今別の地にて、わしの頼みをやってくれている」

「そうなのですね」

「ところで、ここに来たということは、豊島への移動手段などを確保したいということであるか?」

若狭は、扇を前に刺して蘭伯に尋ねる。

「まぁ、それもありますが」

「歯切れの悪い回答じゃのう」

若狭が訝しげに蘭伯へと問うと、彼女は1枚の神を手渡す。

「あの方から来た、追加の依頼となります」

「何々・・・・」

手渡された手紙に目を通す若狭は、少し頭を掻いて他の幹部達に手渡す。

「コヤツの所在は、掴めているのかい?」

「今は、山梨の舘にて他の異国人と共に匿われていると思われます。遺体などもそこに運ばれていたので」

蘭伯の説明を聞いた若狭は、再び狂ったような笑みを浮かべると、刀をドンと床に突き立てた。

「貞観の屋敷か!ならば、なんとも愉快なことよ。蘭伯嬢は、しばらくここで羽を休められよ。武田が来たら案内させるで。後の者達は、わしについて来い!」

若狭の号令に郎蛇党の面々は、勢いのままに大声をあげると、各々の馬に跨って、駆け出していった。

「単純なやつだこと。扱いやすくて助かるわ」

蘭伯達は、彼らが向かって行った先を見据えてほくそ笑む。

善一郎ら思う以上に事態が悪い方へと転がり出していた。

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