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第16話 進路確定

聖暦1795年4月 八幡皇國 筑羽 千田


桝屋に運び込まれた山梨善一郎やまなぜんいちろうは、店主である羽美と共に来た高に事の子細を伺うべく、その場にニシア・マシューバルと美山藤次郎みやまとうじろうを呼ぶ事にした。

「改めて、乱禺衆らんぐしゅう参席を頂いております。高茂呂田と申しまする」

「拙者がこの一行を預かる山梨善一郎だ。隣は、客人であるニシア・マシューバル殿と、当家家臣の美山藤次郎だ」

紹介された二人は、疑いの目を向けつつも頭を下げて挨拶した。

「まず、はっきりと申しておくが、貴様を信用することは出来ない。もちろん、助けてくれた事については、感謝している」

「ご尤もでございます。信じられないのは当然でしょうから」

高は、善一郎が言ったこと受け入れると、懐から数枚の紙を取り出す。

そこには、ニシアとキューナー・ セリシンの人相書きと、それ相応の懸賞金が書かれていた。

「この人相書き、手配書のようじゃが読めんな」

「ヤマナ様の国で使われている言葉ではないから、読めなくて当然ですわ。コウノさんは、これを何処でもらったのですか?」

善一郎から紙を受け取ったニシアは、高に向けて問いかけた。

豊島でじまにいた異国の商人から要請されたと伺っている。わが国には初めてきたような口ぶりであったらしく、受け取った者が前払に見たことのない金貨を受け取っていた」

高は、襲う理由となった経緯を説明して、異国人の影があることも明かしてくれた。

「ニシア殿は、この言葉を読むことが出来るのですか?」

「ええ。これは、わが国の原語ですからね」

彼女が困惑したような顔でその用紙を見つめているのを気にしていた善一郎は、彼女に変わって高に問うことにした。

「この依頼をしてきた異国商人は、どのような顔していたかなど聞いていないのか?」

「生憎、私が直接関わっていないので。ただ、長浜屋や蛇郎党じゃろうとうなどのものにも面識のある者がいるところから、かなり前から接していたのかと思われます」

この件についてかなりの人物が関与していることに善一郎らは、驚愕した。

今までは、ただの遭難者だと思っていたのが、身代金を掛けられて追われていたのである。

しかも、荒くれ者が徒党組んでいるような組織ではなく、蛇郎党や乱禺衆といった筑羽でも名の通った集団までが関与しているとなれば、苛烈な攻勢が予想されるだろう。

「ヤマナ様。ラングシュウ?っていうのは、どのような者たちなのですか?」

「乱禺衆っていうのは、特殊な術を持っている異能集団です。八幡の各国で暗躍している者たちなので、そこに属する者たちも多いのですのよ」

乱禺衆の事を軽く説明した善一郎であったが、彼自身も詳しく知らないような顔をしていた。

「暗愚集団ですからね。知らないのも仕方ないと思います」

善一郎の顔から判断した高は、自身の組織について語り始めた。

「我ら乱禺衆は、元々『豊島』のある『外毘』の国を中心に活動しておりましたが、豊壬様に気に入られた事で、各地で贔屓にさせてもらうようになりましたが、豊徳家が八周を従えた後は、天下が平和になった事で勤めも多くを失い、暗い仕事を手伝うのが常となりました。今の主であります長浜屋の下では、護衛や浮舟の安全確保の為に交渉事を行っていました」

高が説明している話の中に気になることがあったのか、美山が前に出て尋ねる。

「もしかして、お主らに浮舟を持っているツテがあるのか?」

「ツテといいますか、この町にて浮舟を持っているのは、長浜屋とこちらにいる桝屋だけですので。私共は、乗り込んで交渉しているだけです」

高の解答に一同の視線は、羽美の方へと向けられる。

「確かに、うちには商船としての浮舟があります。しかし、安全ではない航路が殆どですので、あんまり出すことがないのです」

「長浜屋の方は、我らがついていたので運用しているのです。何のツテもない桝屋さんが出ていったら、いいカモにされますよ」

羽美の言い分に高が捕捉して話す。

「やはり、何とか守りを固めるか、安全な航路を探さなければいけば難しいか」

「この、壁になっている雲の周りってどうなのですか?」

頭を抱える一同の脇からニシアが雲塀を指差す。

「この雲は、気流が回るように形成しているんでしょ。だとしたら、下手に物取りをする者たちもいないんじゃない?」

「雲塀側に寄せるなんて危険な事をしたら、こちらの舟が持たなくなりまする。遭難すれば、命はないかもしれないですぞ」

ニシアの突飛な発言に美山が諌めるも、善一郎と高の顔は真剣になった。

「ニシア殿の案は、かなり良いかもしれませんな」

「へ?」

高の一言に美山が腑抜けた返事を返す。

高は、近くにおいてあった硯箱から筆などを取り出すと、地図にいくつかの丸を描き始めた。

「高殿。これは?」

「私が知っている空賊の縄張りです。ここから豊島まで行くとしたら、この印の奴らに邪魔されることになるでしょう。ですが、彼女の言う通りに雲塀沿いを進めば」

高が筆を雲塀沿いに走らすと、そこを掠める空賊は、まったくないのであった。

「なるほど。あえて雲塀沿いに進むことで、安全を確保するのだな」

「左様。しかも、この航路を使うことは、豊島への近道ともなる可能性が出てくるのであります」

高の説明によると、雲塀沿いにある気流は、複数箇所でぶつかることで荒れているものの、豊島方向に向かう大きな気流があり、そこに乗れれば、通常であれば1カ月掛かるところを1週間弱で向かうことが出来る可能性があったのである。

この事を聞いた善一郎は、少し疑うような顔をしてから、裏へと下がっていく。

しばらくすると、彼がマキシム・ザウバーと共に戻ってきた。

「ゼンイチロウ殿。私に聞きたいこととは、いったい何なんですか?」

「マキシムさん。君は、ここに来る時の浮舟を操作していたのであろう。そこで、君の意見を聞きたいんだよ」

善一郎は、マキシムを地図の前に座らせると高の説明について話した。

マキシムは、しばらく地図を眺めた後に、肯定するように首を縦に振った。

「彼の言ったコースは、確かに危険なコースだろうが、航行に支障は少ないだろう。それに、空賊とこの人数でやり合うよりもマシだと私は思うがね」

マキシムは、そう言って善一郎の判断を仰いだ。

「よし!羽美殿。浮舟の手配を頼めますか?」

「そんな、急に言われましても・・・・。はぁ、わかりました。ご用意いたしましょうじゃないですか」

羽美が渋々承認してくれた事で、足をようやく確保できた善一郎達は、安堵と喜び表情を浮かべていた。

「その代わり。操船のことは、そちらの異国人にお任せしまるね」

「私がやるのか!」

「生憎。うちにいた操舵手は、皆長浜屋に写ってしまいましたので」

困ったように頭を掻いているマキシムの元にニシアが近づく。

「貴方は、我が国でも指折りの飛行船乗りです。きっとやり遂げられますわ」

明らかな無茶振りに顔を引き攣らせる一同を前に、マキシムがため息を出しつつ首を縦に振った。

「わかりましたよ。公女殿下の申し付けとあらば、致し方ない」

「決まりですね。では、直ちに出港の準備をいたしましょう」

ニシアがそう言うと、善一郎も布団からゆっくりと立ち上がる。

「そうですね。早いほうが良いでしょう」

「駄目ですよ!若は、安静にしとかないと」

無理をしようとした所を美山に止められる善一郎に高は、一言苦言を告げる。

「今出ていったところで、三盛には勝てませんぞ」

「待て。奴は、お主の配下であろうが」

「わしは、人を集めるために動いたまでの事。彼等の上役は、若狭勝信でございまする」

一同は、その名前を聞くと共に、高への殺気を再び向けていた。

「そんなに構えなさるな!わしは、武田殿と縁を持っている身。若狭の大将とは、関わりなきことでありますよ」

「だと良いがな。取り敢えず、君も同行してもらおうかな」

善一郎は、高に同行を申し出ると、両脇にいる二人は、怪訝な顔をして反対した。

「若。獅子身中の虫になるやもしれませんぞ。私は、反対です」

「ミヤマ様と同意見ですわ。私には、怪しげな男にしか見えません」

二人がそう言って反対するも善一郎は、彼の同行に積極的であった。

「貴様がどのような人物であれ、俺たちに協力した事で、彼の身は危なくなるだろう。だからこそ、ここに残さずに連れて行くのだよ」

善一郎の言葉に二人は、しぶしぶな顔で彼の同行に承認する事にした。

こうして、善一郎の元に高が新たに参加することになった。


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