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異世界経営録 〜補佐官ガイウス〜  作者: ゆさひ
第五章 シシーナ
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5-5 倉庫と船と、見えぬ掟

興味を持っていただきありがとうございます。


【登場人物】

ガイウス:この物語の主人公。異世界者。前の世界では本屋の経営者

デキムス:ガイウスの父。調子者だがフレーメンでは慕われている顔役の一人。

セプティムス:ガイウスの兄。リキニウス家の当主。年の離れた弟に非常に甘い。

テレンティウス:シシーナ支店の支店長。デキムスの幼馴染。やりて。

食事が一段落した頃、テレンティウスが地図とパピルス紙を広げ、今日見た場所を順に示していった。


「――以上が本日ご覧いただいた三件です。どこも契約はできる、と聞いています。ただ、賃料や契約期間、改修許可の条件はかなり違ってきますな」


セプティムスが椅子の背にもたれ、ワインを満たした飾り気のないテラコッタの盃を回しながら応じた。


「狭いが整った街中、広いが湿気が邪魔する城壁沿い、そして1番の広さを持つが城外の別荘。今後を考えると広さと機密性を保てる郊外の物件が良さそうですね。」


ガイウスも同様に考えていたため会話に混じる。


「郊外の別荘はいいと思います。港から遠いですが、広さも、馬をつないでおく土地もあります。従業員が暮らし、荷を留め、事業を広げていくなら、あそこが一番“使える”気がしました。」


デキムスがうなずく。


「私もそう思った。しかし、焦ることもないだろう。今後もいくつか話を聞きながら、選び方を固めよう」


テレンティウスは地図の端に印を付けた。


「では、翌朝にもう一度市庁舎へ参ります。その後、港近くの倉庫事情と、市外の水道管の確認もしておきましょう。」


今回のシシーナでの不動産獲得ミッションは大きく分けて二つある。


一つは、今日行った拠点となる建物と土地を確保する事。


そして二つ目が、フルキアから運び入れた穀物をソリスに海上輸送する際に、ここシシーナで荷をとどめておく倉庫を契約することだ。陸路の輸送も考えるが、最優先は海上輸送でいきたい。


しかし、リキニウス家には自船がないので、そこは船団を持っている組織や個人に依頼をするしかない。

この後、財が蓄えられれば自船の購入も考えられるが、今はそんな資金が逆立ちしてもない。

騎兵団を養うだけで大博打なのだ。

操船技術などが必要な専門職である海上ロジスティクスはアウトソーシングするのが正解だろう。


そこで、積荷の運び手を手配しなければいけない。

倉庫の場所によって契約できる船が変わると言うのだ。

確かに運び出しやすい倉庫の近くに船の係留場所がある方が効率はぐんと上がる。

倉庫と船の係留場所が離れていると、荷運びにいらない人工が必要になりコストが増大してしまう。


それほどコストのかからない船団、そして信頼できる船主と契約をしたいのだが、倉庫が無いと交渉にもならいのがシシーナの暗黙のルールなのだそうだ。


よって、リキニウス家と契約していい船団を探しながら、荷を置ける倉庫もあたりを付けていく。

拠点探しと並行して行う重要ミッションなのだ。


炉の火がぱちりと音を立てる。

葡萄酒の香りがほんのり漂い、食卓の上には地図とパピルス紙、そして第二の故郷のような気軽な雰囲気での会話が交わされたのだった。


-----------------------


翌朝、空は薄い雲に覆われていたが、風は穏やかだった。


前日より少し早い刻限に邸を出る。

港へ向かう荷車の列とすれ違いながら丘を登っていくと、前日と同じ場所――市庁舎の白い階段の前には、既に十数人の商人や土地保有者が並んでいた。


昨日と同じ土地管理官が現れると、わずかに安堵したような顔を見せた。

「本日もお越しいただきありがとうございます。今日は倉庫の視察とお聞きしております。こちらが目録になります。」


薄く綴じられらパピルス紙の巻物が手渡される。

それは、港倉庫の空き状況、入港税関、守備隊の管轄区域などが記された一覧だった。


スプティムスが写しを見る。


「……こちらは、倉庫組合の共有地でしょうか?」


「はい。正式な借地契約ではなく、一定期間の『使用許可』という形になります。費用は安く抑えられますが、保管物の種類や期間に制限がつきます。」


デキムスは、地図の港側を見ながら静かに言った。


「つまり、倉庫そのものを持つのではなく、一部を借りる、という形ですね。」


「その通りです。古くから行われている慣例ですが、正式な公文書には残りません。その分、組合の信用が必要になります。」


ガイウスは横で資料を見やりながら、その言葉の意味を噛みしめた。

公的ではないので手続き楽だが、法では守られていない――

声の大きな人間の一存で簡単に反故にされる危険性がそこにはある、と告げている。


ガイウスは前の世界でも契約を提携しなかった為に痛い目を見たことがある。

特にこの世界では恫喝、暴力、集団ボイコットなどが日常茶飯事のサバイバル世界だ。

契約をしない、ということは生死を分ける大きなことだ。

法が守ってくれるのならば、心強い新進気鋭の法曹界のプリンス、ルーポがこちらにはいる。

何とかして契約書くらいは結ばないとあぶないな、と感じたのだった。


管理官は声を落とし、しかし誤魔化さずに続けた。


「率直に申しますと、皆、できるだけ公平に土地を回したいと思っています。ただ、有力な家柄の方々が早く手続きを済ませてしまうため、後から来る方々には選択肢が限られてしまうのです。」


デキムスは軽く笑みを浮かべる。


「どこの街にも、順番というものはあります。順番が決まっているだけ、まだ話がしやすい。」


「ご理解いただけるなら助かります。できるだけ、機会は均等に与えられるべきかと思いますが、共和国への貢献の程度考えるますと、それもやむなし、となるのが現状でして」


管理官もほっとしたように頷いた。

契約に触れなかったのは流石にデキムスだな、とガイウスは思いながら歩き始める。


これ以上、突っ込めば管理官も引っ込みがつかなくなり、上長への報告などの義務が発生する可能性がある。

やんわりと肯定することで管理官への対応をした熟練味をさすがだと見るのだった。


続いて鑑定士が呼ばれ、城北・港西側の倉庫路地や、城外の街道沿いの空き地の情報が地図に加えられた。

陸路での輸送は拠点を中心におこなうため今日は見送りとなり、海上輸送に必須となる港内の物件を見ることとなった。


地図の上には新たな印がいくつか増え、市庁舎をあとにした一行は、丘を下って港方面へ向かう。

今日は物件の位置を地図に記載しただけで、管理官、監察官は無くリキニウス家のみで物件を見学に行く。

倉庫組合の担当者が現地にいるとのことだった。


午前の市街は賑やかだが、魚商が声を張り上げる港市いちばの喧噪も、遠くから聴く分には落ち着いたリズムに感じられた。石畳は港に近づくほど湿り気を帯び、荷を積んだ車輪の跡が幾重にも刻まれている。


ポルト・アルバ港は朝の出港が終わり、次の船団の入港に向けて準備の時間に入っている。

帆柱の林が風に鳴り、鎖の軋む音、干され修復されている網の塩の匂い、遠くではカモメが水面すれすれを飛び、獲物を探している。


テレンティウスが案内役として前を歩く。

港西側の大通りから細い横道へ入ると、倉庫地区へと通じる影の多い路地に出た。

石造りの建物が並び、それぞれに番号が刻まれている。

いずれも国の管理ではなく、倉庫組合の共有財産として扱われている場所だった。


「“使用許可物件”というのはこの辺りです。」とテレンティウスが振り返り言った。


二階建ての古びた倉庫があった。

長屋風に左右には別の倉庫が並び立ち奥に長い形になっている。

塩水のせいで錆びた大きな鉄製の扉の前で倉庫組合の担当者と二言、三言話をする。

おもむろに巣湖組合の浅黒く焼けた顔の男はジャラジャラと鍵を取り出して扉を開ける。

大きなきしみの音と共に扉が開き倉庫の奥まで見通せる様になった。


「正式な借地契約ではありませんが、船の荷を短期間預ける場所としては広さも条件も悪くはありません。ただ、在庫を長く置くには向いておりません。他の荷の出入りを滞らせると、組合から権利を引き上げられます」


セプティムスが倉庫の扉や地面を見ていた。


「土台はしっかりしているな。だが横幅が狭い。荷馬車を入れるには工夫が要りそうだ。」


「そうですね。ただ――」とテレンティウスが続けた。


「西側の裏道からなら、二輪の荷車ならぎりぎり入ります。船との距離は近いので、穀物の積み替えには適しています」


話をしていると、通りを横切った若い船員がこちらを見て会釈した。

テレンティウスも軽く手を上げ、それから小声でガイウスに言った。


「今の者は、かつてフルーメン支店で荷の手伝いをしていた者です。ここでは水夫として働いております」

「顔馴染みも、少しはいるんですね」


「ええ、港というのは広いようで狭いものです。だからこそ、動き方を誤らなければ、人は助けてくれるはずです。」


さらに歩くと、港周辺の道の起点、税関の建物が見えてきた。

そこでは出港予定の船の確認が行われており、帳簿を抱えた役人と船長が立ち話をしている。

デキムスはそれを横目に見ながら言った。


「やはり船の手配が最も難しいか」


テレンティウスは言葉を選びながら頷いた。


「貨物船そのものはあります。ただ、依頼主によっては断られることもあるようです。……港の船乗りたちは、貴族の船と商家の船、どちらにも関わらず働いています。ここでは船乗りの需要が常に高いので、強引なやり方は嫌われ、引き受け手が無くなるとも聞きます」


デキムスは深くうなずき、余計な言葉は添えなかった。


「強く出れば道が開く、という街ではないということか。」


セプティムスは笑みを見せながら頭をかく。


「ええ、そういう意味では、この街は賢いのですね。まあ、我々は正々堂々がモットーですからな。どこかの商家のように表に裏に、やたらと手を回して強引に進めるのは筋が違いますね」


テレンティウスが穏やかに返した。


「全くその通りだ」


にこりともせず、デキムスが強引に進めるのが誰とは言わず、当然と言うようにその会話を終わらせるのだった。


昼に近づき、光が港の水面を眩しく照らしはじめた。

支店に戻る途中、テレンティウスがガイウスに静かに告げた。


「今日のところは、目に見えるこの街を見ました。明日は“目に見えない街”の話をしましょう」


ガイウスは頷いた。


「必要であれば、聞きます」


「ありがとうございます。すべて堅実な道です。ただ選び方次第で、先は大きく変わりますが」


港の潮風がまだ冷たかったが、どこか晴れやかな気配もあった。

ご覧いただきありがとうございました。

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作者のモチベーションを上げると思ってよろしくお願いいたしますm(__)m

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