第80話 ディック・クロス vs ペック・クロス
ルーク達が待ち伏せをしているとボコール兵達がどんどん近づいてきた。ヒデーノとエグイノもこの一団と一緒に攻めてきた。
ノー・ソイは予定通り、ボコールの一般兵の相手をチャスティンの護衛の精鋭兵に任せることにした。
ルークとノー・ソイは敵のペッカーの撃退に集中することにした。
プルードー王国軍の精鋭兵36名はボコール兵が彼らから10メーターくらいに近づいて来た時、敵の前にいきなり現れて予定通り3列に整列して槍を構えて突撃をかけた。不意を突かれたボコール兵は抵抗することなく倒れた。
ルークとノー・ソイは精鋭兵の後ろに続き敵のペッカーが攻撃に移るのを待った。まだルークとノー・ソイの存在は敵のペッカーにバレてない。この段階で奴らがペック・クロスを放つことは絶対にない。
ルークの後ろにはチャスティンを護衛する精鋭兵4名とアークがいる。
ヒデーノとエグイノはこの惨劇を見ると3列に整列したプルードーの精鋭兵に突撃をかけた。彼らは中央突破するつもりだ。
ヒデーノとエグイノが突撃してくると、プルードーの精鋭兵はとっさに道を空けてヒデーノとエグイノが通れるようにした。だがその道にはルークとノー・ソイが逆に突入してきた。
ここで2人のディッカーと2人のペッカーの戦いの火蓋が切られた。
不意を突かれたヒデーノとエグイノは退いた。ルークとノー・ソイは連携を取りながら追撃をした。
ヒデーノとエグイノは完全に押されていた。それは彼らが不意を突かれたからではない。彼らの技量がルークにすら劣っていたのだ。いや、ルークにすら劣っていると言う表現はもはや適切ではない。なぜならルークはもはやノー・ソイを凌駕するディッカーに育っていたからだ。
ここ1ヶ月でルークの技量は急成長していた。ノー・ソイはルークの急成長を目の当たりにして新たな希望を見出していた。
ルークはキメラの遺伝子を持っている。ルークの体には魔女の血も流れている。ディッカーとして、そして魔女としての戦士の血が相互作用してルークをこれほど早く成長させたのかもしれない。もしかするとルークはダーム・レイダーに勝ちうる存在に育ったではないかと思えるほどに。
当然の事ながらルークの実力はもうすでにヒデーノとエグイノなんか敵ではない。
ヒデーノとエグイノは直接、ルークとノー・ソイとペック・セイバーで打ち合うのを避けた。もはや勝ち目がないと悟ったからだ。
だが彼らには最後の切り札がある。それはペック・クロスだ。
彼らはボコールの一般兵を盾にしながら後退し、ペック・クロスを放つチャンスを窺っていた。
ルークとノー・ソイはボコールの一般兵を容赦なく蹴散らした。だがボコールの一般兵は次から次に来るからヒデーノとエグイノとの距離がどんどん開いた。
ルークは『奴らは自殺志願者か?それともアヘンでも吸ってラリっているのか?』と思いながらも問答無用でブチのめした。
ヒデーノとエグイノはペック・クロスを放つのに十分に距離が稼げたと判断した。そして自らのフォーナスを溜めは始めた。それを見たノー・ソイはルークに向かって叫んだ。
「ルーク、我々もディック・クロスを放つぞ!」
「ぶっつけ本番で?マジかー?!」
「マジだ」
ルークは覚悟を決めた。失敗する可能性は高いが、やらなければ確実に負ける。そして死ぬ。自分だけならまだいいが、自分の後ろにいるチャスティンも巻き添えを喰らって殺される。それは絶対に嫌だ。
ルークは覚悟を決めた。ルークはノー・ソイと向き合うと、ディック・セイバーを交合わせるとフォーナスの溜めを始めた。
一か八かの大博打の始まりだ。
だが、ノー・ソイはこれは一か八かの大博打だとは思っていなかった。ルークとノー・ソイはすでに1年近く一緒に行動し、フォーナスの訓練をしていた。もうすでにお互いの間に阿吽の呼吸が完成しつつあった。
それにルークはフォーナスのセンスがすごくよかった。ルークはきっと彼のフォーナスと完璧に合わす事ができるだろうとノー・ソイは信じていた。
だからノー・ソイはぶっつけ本番でディック・クロスを放っても失敗しない事を確信していた。
ルーク達がフォーナスを溜め始めると全く無防備になった。たがボコールの一般兵は容赦なく突撃してきた。
ここでようやく、チャスティン達の出番がきた。チャスティンは待ってましたかと言わんばかりに張り切った。
そして銃口をボコール兵に向けると引き金を引いた。
パン、パン、パン⋯⋯
銃声が辺りに鳴り響いた瞬間、数名のボコール兵が倒れた。敵はルーク達に届くことなく絶命した。
チャスティン達がルーク達を援護したお陰で、何事もなくフォーナスを十分に溜めることができた。どうやら敵のペッカーも十分にフォーナスを溜めたようだ。
『ペック・クロス』
『ディック・クロス』
お互いの技が同時に炸裂した。中間地点に居たボコールの一般兵は2つの技から生み出される爆発的な衝撃波で文字通り蒸発した。
しばらく衝撃波は中間地点でくすぶっていたが、段々とヒデーノとエグイノの方に押されていった。そして衝撃波がヒデーノとエグイノのペック・セイバーに触れると彼らは木っ端微塵に吹っ飛んだ。
そして辺り一帯が整地された。
辺りにいたボコール兵は皆殺しにされた。
ルーク達の後ろにいたプルードー兵達は全く被害を受けなかった。
しかしながら、ノー・ソイもこの勝利に代償を払うことになった。ノー・ソイのディック・セイバーから鈍い音が聞こえた。
ゴキィ
ノー・ソイのディック・セイバーは技の衝突で生まれた圧力に耐えられなかった。そして折れた。ポキっと。
「ノー・ソイ、大丈夫か?」
ルークは心配して尋ねるとノー・ソイは後ろ髪を引かれる思いで答えた。後ろ髪を引かれる程、髪はないんだけど。
「我の命には別状ない。ただ、我のディック・セイバーは折れてしまった。我はもう歳だな。我のディッカーとしての人生はここまでだ。インポになった今、我のディック・セイバーはもう使い物にならない」
今、この時点を以って、この世界のディッカーとペッカーは1人づつになった。
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