第58話 死者蘇生の秘技
朝食後、ルークはチャスティンに魔女の魔力に関して1つ質問をした。ルークはずっとそのことに関して聞こうと思っていたが、船旅の時に聞くのを忘れていた。
今、チャスティンはルークと共に行動して協力してくれるようなので聞いてみることにした。それは死者蘇生の秘術だ。
本当にそんな事は可能なのか。
そしてそれで復活した生命がどうなるかについてだ。
チャスティンはしばらく考えてから話を始めた。
「私の知る限りそのような秘術は存在しません。本来、人の肉体は死んだら終わりですから。秘術で大怪我を直すことは不可能ではないですが、これすらかなり難しい。並大抵の巫女では無理ですね。今の私を含めて」
やはりそうなのか。せいぜい直せて怪我くらいか。ルークが思いふけっているとチャスティンが続けた。
「1つの可能性として、これは臨死体験ではないでしょうか。叔父様の話を聞くとダムジラさんの心臓は完全に止まっていたとか。対象者の体の損傷は少なかったことと死んでからあまり時間が経過していなかったこと。この2つの条件の元で秘術を行うと成功するとか。人間、死んでからあまり経っていないと生き返ることもあります。例えば溺れて死んだ人を人工呼吸で生き返させることは誰でも可能です」
確かに。
ルークは一般人が溺れて死んだ人を蘇生させた所を目撃したことがあった。
これは完全に噂ベースだが、死んで棺桶に入れられた人が墓に埋められた後に復活して棺桶の蓋の内側を爪で引っ掻いた跡があったなんて話もある。
これはあながち秘技では無いのかもしれない。
チャスティンは更に続けた。
「よく臨死体験者が三途の川を渡る手前である偉大な人物とか死んだ親近者に引き止められ、こちら側に戻ってきたというような話があります。ペッカーに仕える巫女は模倣者としてその人物になりすまし、死者を洗脳してから生き返らせることが出来るのかもしれません」
なるほど。あり得ない話ではないな。
「洗脳とはそんなに簡単に出来るものなのか?」
「いえ、全然。でも洗脳自体は誰にでも出来ます。ただ、それをするには非常に長い年月を要します。数十分程度の時間で出来るものではありません。だが、巫女の場合は少し違うかもしれません。巫女は死者を蘇らせる時、神に模倣して対象者を洗脳することが不可能ではないかと思います。肉体から出た霊魂は脆弱でもろい。この状態だと洗脳はそれほどハードルが高くありません。その場合でも洗脳するにはそれなりに時間が掛かると思います。だから叔父様が成功率は低いと言ったのは理解できます。洗脳される前に敵として復活されるのは本末転倒ですから」
「聞いた限り、これを秘技と呼ぶのはいささか大げさかな。チャスティン、もし君が同じことをやれと言われたらできますか?」
「もしこれが臨死体験であれば 理論的には可能だと思います。ですがこれが臨死体験と決まった訳ではありません。それに私自身、それをやったこともなければ、そのような事を頭の中で検討したこともありません。私にとってもその秘技を聞いたのは今日が初めてですので」
チャスティンはそのように言ったが内心、戸惑っていた。自分が神の真似をして死人の魂を洗脳してから蘇生させることを頭の中で検討しようとしていることに。
自分が神の真似事をするなんて恐れ多い。これは巫女としてどうなのか?
そんな事を考えている自分に身震いをした。
それにだ、洗脳しながら傷の修復もしなければならない。傷の修復だけでも大仕事なのに、洗脳という別の大仕事を同時にやらねばならない。ペッカーに仕える巫女はどうやったのか気になった。
洗脳するにせよ傷を修復するせよ魔術を2重に掛ける必要がある。
だが魔術を2重に掛けるなんて聞いたことがない。
本当に出来るのか?
2人の巫女が別々の魔術を同時に発動すると反発し合って上手くいかない。
これでチャスティンの今後の修練の課題が決まった。それは2つ以上の魔術を重ねて同時に発動することが可能かどうか検討することだ。
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