第20話 ワン・コロの過去1
ワン・コロは旅の途中、今までの彼の人生を語りだした。
ワン・コロにとってボコール帝国の存在は悪夢そのものだった。1度ならず2度まで彼の全てを奪い去った。
ワン・コロはショーマニーという国の裕福な商人の家に生まれた。幼少期は何不自由なく育ち活発で明るく社交的な性格に育った。
だが、彼が10歳の頃、ショーマニーの政情が変わった。極左政党がショーマニーの政界に進出し、ついに政権を奪取したのだ。党首の名はアグリ・マーケットと言う。因みにマーケットのつづりは市場のMarketではなくMerquétだ。女性のリーダーだ。
女だが見た目はヒットラーと鄧小平を足して2で割った顔だ。急進的て言うか男性中心社会からの脱却と言うか、そのような雰囲気が社会に蔓延していた。その流れでの女性のリーダーの誕生だった。
男女平等をモットーとして女性の社会進出を促した。そして古き習慣からの脱却を目指し、既得権益の排除に動いた。
政権の閣僚の3割くらいは女性だった。以前は女性の閣僚など1人もいなかった。だがそれは表向きの顔だった。
最初の4年間、政権運営はうまくいっていた。停滞していた経済も既得権益を排除したことで新陳代謝が起こり復活した。古い価値観と伝統主義を捨てることによって新たな産業が生まれ、経済が一段と活発になっていった。
政権は特に宗教に対する辛辣な政策を敷いた。古い価値観と伝統主義からの解放に一番邪魔な存在だからだ。
経済が絶好調になると政権は更に支持を増やしていった。マーケットは民衆から絶大な支持を受け、しだいにマーケットへの個人崇拝が顕著になり始めた。
それと同時に古い価値観である禁欲的労働が軽んじられ、段々と金銭欲のみが支配する世の中になっていった。金が正義だみたいな雰囲気が社会に蔓延した。
まさに鬼に金棒ではなく鬼に金の延べ棒だ。
ショーマニーでは新たな貨幣制度が導入されていた。それは紙幣だ。紙幣の単位はペロだ。価値は100ペロ1銀貨だ。銀本位制の兌換紙幣で後に不換紙幣になって経済と国が崩壊することになる。
ワン・コロはこのことがあり紙幣を一切信用しない。ノー・ソイ達に金貨で乗船料金を請求したのは紙幣に対する不信感からであった。
ワン・コロが16歳になるとマーケットへの個人崇拝は異様な形になって現われた。挨拶は足をピシッと揃えて右手の斜め前に突き出す。
「ハイル・マーケット」
皆がこのような形で挨拶をするようになっていった。て言うかこの独裁政権によって強制された。
以前に比べ経済成長が落ち、停滞感が漂っていた。それで新たな求心力を、と言うことでマーケットへの個人崇拝の強要された。
経済がうまくいかないのはマーケットに対する信頼心の欠如が原因であるとこじつけた。
それをやらない者の多くは行方不明になったりした。
多分、どこかの強制収容所に放り込まれたのであろう。
表向きは自由と言いつつ自由はなかった。彼等の言う自由は彼等に逆らわない限りにおいての自由だ。
逆らったら一貫の終わりだ。彼らが言う自由を否定すれば自由を否定する悪魔と罵られた。
人々は鬱憤を晴らすため更に弱い者へ八つ当たりして虐待した。すなわち貧乏人だ。金があれば何をしても構わないみたいな感じが社会を支配した。
文句があるなら国名みたいに金見せろ的みたいな。ショーマニーとはよく言ったものだ。ここに資本主義ならぬ金権主義が誕生した。
この国では金がないと世渡りできないようになっていった。
ワン・コロの実家の商家は独裁政権に伝手があまりなく少しづつ傾いていたがまだ大金持ちの類だ。既得権益の排除の影響だった。
ワン・コロの実家は超が付かないが、かなりの金持ちだ。ワン・コロは金を利用し上へ登り上がるつもりだ。
18歳の時、ワン・コロは商業大学へ入学した。勿論、賄賂を掴ませ確実に入学した。ワン・コロは頭は悪くないからこの大学への入学ができない訳ではない。
が、確実に入学するために賄賂を使った。金の力を使えば難しい事でも簡単に解決できる。わざわざ無理に苦労する必要もない。
勉学も卒業も軍の徴兵も金を使って切り抜けた。金権主義ばんざい。
だが彼が24歳の時、ショーマニーとボコールとの間で戦争が始まると軍へ強制徴兵された。
金の力では強制徴兵をどうすることもできなかったので応じるしかなかった。でも軍での任務は金の力を使って乗り切るつもりだ
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