第18話 モッコの襲撃
翌日の夜、ワン・コロは荷積みを終えるとフロステーを出港した。
フロステーから2日ほど進むと川が大きく曲がりくねった所がある。待ち伏せをするには絶好な場所だ。上からの見た目は馬の蹄鉄のようだ。
湾曲部の入口と出口の間は小高い丘になっており、どちら側からももう一方の方は見えない造りになっている。モッコはこの小高い丘に斥候兵を配置し、モジョラー号が通るのを待った。
湾曲部の出口には雇った船3艇が待機している。船には海賊に扮したボコールの正規兵の他、操船のために海賊まがいのゴロツキが乗船している。
出港から2日後、モジョラー号はこの湾曲部の入口に差し掛かった。
丘で見張っていた斥候兵は湾曲部の出口に待機していたモッコに合図を送った。モッコは連絡を受けると待機していた船に対して戦闘準備の命令を下した。
後5分も立たない内にモジョラー号はやってくる。
2艇は左右に展開して下流へ向けってゆっくりと先行しながら待機、残り1艇は上流に向けて航行し、モジョラー号が通りすぎたら反転してモジョラー号の後ろに回り込む。
フォーメーションとしては3方から挟み撃ちできるように配置した。
その上、丘の斥候兵からは矢や銃を使ってモジョラー号を攻撃する手筈を取ってある。
上流に向かった船が反転したら戦闘開始の合図だ。
モジョラー号は順調に航行していた。今まで何のトラブルもなく進んでいた。平和そのものだ。
エイナールでは戦争が起きているにも関わらず。
ルークは訓練以外何もすることがなくて退屈していた。
何か起きることを期待しつつ、厄介事には巻き込まれるのはごめんだ。
ある程度の刺激があればいい。
ルークは船の上にくつろぎながら景色を眺めていた。ワン・コロからこの湾曲部の景色は絶景だと聞いていたので船の上から見学だ。
丁度、日が沈みかけて夕焼けに照らされた岸壁が赤く染まって綺麗だ。
だが兵隊が丘の上で何やら活発に動き回っている。場違いじゃないか。折角の風景が台無しだ。
下流から船がこちらへ近づいて来ている。
通り過ぎる時、相手の船にはガラの悪い連中が乗っているのが見えた。こちらを見て何だかニタニタしている。超気持ち悪いんですけど。
しばらくするとその船が反転してきた。おかしな動きにルークが気付くとワン・コロに報告した。
「あの船、何か変だぜ。超怪しんですけど」
「ああ、わかっている。ただの追い剥ぎなら問題ないぜ。そんなの日常茶飯事だ」
丘に上に控えていた斥候兵は目まぐるしく動き回っていた。そんな時、指令官は命令を出した。
「撃ち方始め」
パン、パン、パン⋯⋯
鉛の弾がこちらへ向けて飛んできた。モジョラー号の至る所に被弾した。
と同時に火矢も飛んできた。
モジョラー号のクルーは当たった火矢の火を要領よく消していった。放っておくと船に燃え広がってしまう。
下流にはモジョラー号を待ち受けるかのように左右に展開している船が2艇あった。
そしてその2艇の左右の幅が徐々に狭まって来ている。完全に挟み打ちの体制だ。
「全速前進。荷物の4分の1を捨てよ」
背に腹は代えられない。命あっての物種。こうも連携を取られては撒き餌さを撒くしかない。
ただの追い剥ぎなら喜んで追跡を諦めるだろう。
こういう時の為、わざわざ水に浮きやすい荷物を積んでおいた。
ワン・コロは2艇の真ん中を突っ切ろうなどと無謀なことは考えず、左右どちらかのより広い方へ逃げるつもりだ。
真ん中を突っ切ろうとすれば両舷から攻撃を受ける。それだけは避けたい。
それからできれば川のカーブの外側から抜けたい。外側の方が水流が早いからな。
だがそんなことは海賊もわかっている。
ワン・コロは一旦、カーブの内側へ行くと見せかけて左舷に舵を取り先行している2艇が左舷に誘導されるのを確認すると右舷に舵を切った。
後ろを確認すると反転してきた船は撒き餌さには見向きもせず追って来ている。
後方からは火矢が飛んできた。
そして丘の上からも。
さらに丘の上からは鉛の弾も飛んできた。
完全に丘の上の連中のことを忘れてた。面舵を切ったのは失敗だったかも。
そして1つわかったことがある。これはただの追い剥ぎではないと。何かの意図をもって彼等を襲撃している。
モジョラー号は右岸の岸ギリギリでカーブを曲がるとそのまま先行していた船を追い越した。
そのはずだったが先行していた船は数本の銛をモジョラー号に投げて船体に銛を引っ掛けた。普通の銛ではなく追い剥ぎ用に改良された銛だ。
だいたい川魚を取るのに銛はほとんど使われない。
モジョラー号は先行していた船に引き寄せられ横っ腹に突っ込まられた。その衝撃で船体に穴が開き、船内に水が浸水してきた。
接岸された船から次々と敵兵が乗り込んできた。船上では白兵戦が繰り広げられている。
ここではルークもノー・ソイも参戦している。
ルークはまだディック・セイバーを使えないが、ノー・ソイもここでは使っていない。
彼等は普通の剣で戦っている。
日も暮れて辺りがだいぶ暗くなってきている。
火矢のせいでモジョラー号は燃えていた。まだそれほど勢いよく燃えてないが。辺りを照らすいい照明になっていた。
ゴメン、モジョラー号よ。
ルークとノー・ソイは大活躍だ。
ワン・コロのクルーをすごく驚かせた。
この2人はただの一般人ではなかったからだ。戦いぶりを見るに歴戦の戦士を彷彿させる。
だが敵の勢いは衰えることはなかった。
先行していた別の船には船首に回られ接岸、後方の船には船尾に回られ接岸、右岸からは丘に居た兵が続々と集まってきている。
四方八方から囲まれた。もう逃げ場はない。ルーク達は完全に劣勢に立たされた。
モジョラー号の船首を塞いだ船から1人の男がモジョラー号へ降りてきた。男の名はモッコと言う。
この襲撃の主犯だ。
モッコは武器も持たず堂々としている。まるで無敵かとの如く。
モッコはノー・ソイを見つけると怒りを込めて言い放った。
「おい、そこのハゲ、よくも俺の相棒を殺してくれたな」
ノー・ソイはそれを聞き、彼が誰を殺したかと思った。だがそれには反応しなかった。
「我はハゲてない」
反応するとこそこ!
普通、反応する所は奴の相棒は誰だ、だろうが。
モッコはズボンのジッパーを下げ、自分の一物を出すとおっ勃ってた。
なるほど、奴の相棒はシャブーレで一撃を加えたペッカーだったんだな。
ノー・ソイも自分の一物をズボンから出すとおっ勃ってた。ルークはここで初めての本格的なディック・セイバーのデュエルを見ることになる。
ディック・セイバーとペック・セイバーが何度も激しく打ち合っている。
ブーン、ブーン、ブーン⋯⋯
ディック・セイバーとペック・セイバーの打ち合いにはセイバーの風切り音しか聞こえない。元々、肉塊なので金属が打ち合った時に鳴る、キーンという音はしない。
船の上で戦うには普通、下半身のバランスが必要だがディッカーやペッカーには関係ない。彼等は重力を超えた戦いをする。
2人の戦士が激しく立ち回りながら打ち合っているとモッコの衣服に火が付いた。
モッコは衣服に付いた火を消そうと気を取られている隙にノー・ソイからの強烈な一撃を喰らった。
そしてモジョラー号の船内まで吹っ飛ばされた。
その頃、ワン・コロは決断に迫られていた。彼の船モジョラー号をどうするかだ。
この火を消し止めるにはもう不可能に思えた。
その上、3方を船に取り囲まれて身動きが取れない。詰んだわコレ。
船上にいたクルーはことごとく賊に惨殺された。
船内にいるクルーとは全く連絡が取れない。
船上にいるのはワン・コロと彼の客2人だけだ。
残りは賊だ。
ワン・コロは船を破棄をすることにした。
ワン・コロはこういう時のために船内に爆薬を仕掛けている。ニッチモサッチモいかなくなった時にする究極の選択だ。賊共々川の藻屑にしてくれる。
導火線に火を付けると約1分の猶予がある。
「船から退避」
ワン・コロは居るか居ないかわからないクルーに向けて宣言すると川に飛び込んだ。
ルーク達も川に飛び込んだ。
導火線の火が爆薬に引火するとモジョラー号が大爆発して、他の3艇の船共々丸ごと焼き払った。
辺り一帯がしばらく赤々と赫いた。
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