第11話 旅立ち
ルークは一連のやり取りを側で見ていた。何が起こったのは全くわからなかった。
まるでボコール兵はトランス状態に掛けられたように見えた。
催眠術などそんなに簡単に掛けられるものなのか?
かなりのやり手と見た。
「今の、どうやってやったのですか」
ルークの問にノー・ソイは丁寧に説明した。
ノー・ソイに依ると彼は人の心の弱い所を突いてコントロールしたとのこと。
人の意思は水の流れと同じような物だそうだ。
水は上から下に流れる。
水が上から下に流れる時は力を全く必要ない。だが水が下から上に行くときにはすごい力が必要になる。
人も心も同じように作用する。
人も堕ちる時は簡単だが、強い意思を保ち続けるのはかなり強い精神力が必要になる。
人は皆、楽な方へ流されやすい。これが人がやるべきことができず、誘惑に負けて簡単な方へ向かってしまうの根本的は理由だ。
ノー・ソイは人が持つ弱い心の部分を増長し利用したのだ。
要は面倒くさい輩を止めて面倒くさい仕事を増やすよりもソイツ等を通らせて知らん顔していれば余計な仕事が増えないとのことだ。
もし何かして変にトラブった場合、その責任は自分にのしかかる。人間誰でもそれは避けたい。触らぬ神に祟りなしだ。
ボコール兵は普段、真面目で『触らぬ神に祟りなし』なんて思っていないからそのような行動を取らないが、ノー・ソイは不思議な力を使ってそうなる様に仕向けさせたのだ。
2人はノー・ソイがキャンプしている山の麓まで行くと今後の計画について話した。
シャブーレから離れるのは絶対条件だ。
ここにいたら間違いなく戦争に巻き込まれる。
将来的にはボコール帝国との戦争に参加するが、今はその時期ではない。
ルークは一般の兵としてはかなり有能だ。シャブーレでの市街戦において驚くべき早さで何人ものボコール兵を葬ってきた。
並の戦士ができる芸当ではない。
だがボコール帝国の皇帝と対峙するには完全に力不足だ。
ダーム・レイダーは伊達ではない。優秀な戦士が100人束になってかかっても敵ではない。
彼に対峙できる戦士は超人戦士しかありえない。その超人戦士の中でもさらに選りすぐりの戦士ではなくては刃が立たない。
18年前のあの日、世界屈指の超人戦士であるノー・ソイですらレイダーを打ち破ることができなかった。
そして今日、新たなる希望の星である超人戦士の卵を見つけた。そんな貴重な人材を何の訓練もせず戦場へ送る愚かな行為などする訳はなかった。
ではどこへ行くのか。
1つ目のチョイスはエイナールの首都フロステーだ。
エイナールはシャブーレを失ったとはいえ大国だ。まだまだ余力は残っている。これから復讐戦のために大動員が行われるだろう。ノー・ソイは年配なので大動員に巻き込まれる可能性はないが、ルークはピチピチの18歳の立派な青年なので必ず目を付けられる。こんな所で貴重な人材を失う訳にはいかない。
2つ目は更に南下して隣国のプルードー王国へ入国することだ。
プルードー王国にはノー・ソイの知り合いがおり、その伝手を頼ってルークを鍛えることができる。
だが危険もある。プルードー王国にはノー・ソイにとって頼もしい友人が居るということは周知の事実でありボコール帝国の皇帝レイダーも承知している。
暗殺者を送られるリスクがある。
3つ目は南西に行きアメンボ分裂国へ入国することだ。
この国には何の伝手もない。潜伏するにはいい国だがもうノー・ソイの存在はレイダーにバレているのであまり行く動機がない。
ただ、友人が居るプルードー王国に行くと見せかけてこの国に行くという手もある。
どちらの隣国へ行くにせよエイナールの首都のフロステーを通るのでまずは1つ目のチョイスであるフロステーへ向かうことにした。
この街は素通りする予定だ。変な動員令に巻き込まれたくない。シャブーレから約4週間の道のりだ。
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