第10話 シャブーレからの脱出
ルークは老人と一緒に南の方角へ歩いていた。
ルークには実感がなかった。彼が本当に助かったことに。あの時、死を覚悟した。が、いきなりすごい人が登場し、あっという間に彼を救ってくれた。
そんなことはどっかの小説でしか起こらないような白昼夢のような出来事だ。まさか自分に起きるとは夢にも思わかった。ルークは老人を見ると声を掛けた。
「さっきはありがとうございました。あなたがいなければ、俺、きっと死んていました」
「礼にはおよばないよ」
「ところでお名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
「今はそんなことをしている暇はない。急いで逃げよう」
もう1人いるのだ。超人戦士が。2人は急いで現場から離れる必要がある。
ノー・ソイは気配を極限まで消した。これで見つかるリスクはかなり減るはずだ。
2人はまずルークの家へ向かうことにした。
ルークは家に着くと着替えをした。ルークの服にはたっぷりと返り血が付いていた。
服を脱ぎ、濡れたタオルで体を拭くと新しい服を身に着けた。
少し落ち着くとルークは老人に声を掛けた。
「先程はありがとうございました。ルーク・リックサッカーと言います」
「あぁ、気にしなくていいよ。私はノー・ソイ・ボールドーです」
えっ!ハゲてるんですけど。
ノー・ソイの見た目70代の老人だ。
髪の毛には白髪はなく黒一色だ。
側頭部は薄くなっているとはいえ、ハゲてない。だが前頭部と頭頂部はハゲていた。側頭部の髪の毛が左右に向けて頭頂部のハゲを隠すようにまばらに伸びていた。
無駄な努力、ご苦労さまです。
頭頂部の見た目はまるでバーコードのようになっている。スキャナーを使ってピッとスキャンしてみたいとそそられる髪型だ。
まぁ、この世界にはそんな物はないのだが。そう言えばどっかの国の元総理大臣にそんな髪型の人がいたよな。
「我はハゲてない」
ノー・ソイはムッとしてルークを見ると言い放った。
ルークは不思議に思った。今、口に出して言ったかと。否、絶対に口に出していない。まさかこの老人、人の心が読めるのか?
それは置いといてルークは会話を続けた。ルークには色々と聞きたいことがあった。
あの変態男のこととか。あの変な一物のことも。
だいたい剣を弾き飛ばす一物って一体何なんだよ!
だがやはり言われた。そんなことを説明している時間はないと。後からしっかりと説明すると言われると納得した。
ルークは寝室へ入ると荷造りをした。持っていける荷物は限られる。
まずは衣服類を集めた。それとある程度の食料も必要だ。キッチンに行くと有りたっけの食料を集めた。
それから一番大切な物は金貨だ。これがあれば服や食料がなくても何とかなる。
最後は武器類だ。
短剣や折りたたみ式のナイフを何本か荷物の中に入れた。
槍やクロスボーも持っていきたかったがノー・ソイに止められた。この2つはバッグに入りきらない。武器の一部が外へ出てしまうと街を出るときにトラブルになるかもしれない。
戦士だとバレて逃げる時に止められるかも。ルークは荷物をまとめるとノー・ソイと一緒に家を出た。
街へ出ると至る所から煙が上がっていた。どうやらレジスタンスが抵抗しているようだ。
だがボコール兵による組織的な略奪行為は行われていないようだ。散発的な略奪行為は見られた。
ルーク達は南門の近くまで行くともうすでに南門はボコール兵に制圧されていた。
この街から脱出するのはかなり困難に思えた。
ノー・ソイはお構いなしに南門の方へ進んだ。ルークはヤバいと思いながらノー・ソイに付いて行った。
「ノー・ソイ、このまま行っても大丈夫なのか。到底、門を通れるとは思えないのだが」
「大丈夫だ。我に任せておけ」
ノー・ソイにとって南門にいるボコール兵よりももう1つの強い気配の方が気になっていた。
コイツには絶対に見つかってはいけない。ノー・ソイが気配を探索するとその気配はまだ南門から遠い位置にあった。
今のうちに街から出る必要がある。街に長く居れば居るほど脱出が難しくなるからな。ノー・ソイはそのまま門の方へ歩いていった。
門に着くと案の定、ボコール兵に止められた。
「おい、貴様ら。どこへ行く気だ」
ノー・ソイはその問に答えなかった。兵に対して穏やかに微笑んでいるだけだ。
『何も問題ないな』
ノー・ソイは頭の中でそう念じた。兵は操られるようにそのまま反復した。
「何も問題ないな」
『通ってよい』
「通ってよい」
2人はそのまま南門から街を出た。
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