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適当  作者: 正倉院ネムル
2/3

焔の残り香が村に漂っていた。

風に舞う灰が、まるで亡霊のようにリアの肩に降り積もる。


戦いは終わった。

だがそれは、魔族の勝利ではなかった。


突如現れた人間の騎士団が村の包囲を破り、魔王軍の部隊は撤退を余儀なくされた。

リアもまた、撤退命令に従って森の奥へと身を隠す。

だが——彼女の心は、仲間と共に戻ることを拒んでいた。


「……なぜ、私だけ……」


手のひらを見る。

あのとき、あの子を斬れなかった。

人間の子供を前にした瞬間、手が動かなかった。

恐怖ではない。

それは、**理屈ではない“感情”**だった。


魔族は、弱き者を躊躇なく殺す。

それが「自然」であり、「正義」と教えられてきた。

けれどリアは、知ってしまった。

命が失われる瞬間に宿る、痛みと悲しみを。


背後に気配を感じた。


「……誰だ。」


「剣を捨てろ、魔族。……今のお前に戦う意志はないはずだ。」


声の主は、一人の青年だった。

銀の甲冑を纏い、剣を鞘に納めている。

それは——村を守るために駆けつけた、人間の騎士団の一人。


「私を殺さないのか?」


「剣を抜けば殺す。だが、お前は抜いていない。」


リアは一瞬、目を伏せた。

命を賭けて戦った仲間たちの顔が浮かぶ。

だが同時に、焼かれた村の子供たちの泣き声も、胸の奥でこだまする。


「……私は、魔族だ。」


「そうだな。だが、お前は“殺さなかった”。」


青年はリアに背を向け、森の奥へと歩き出す。

「追ってくるな」とも、「来い」とも言わなかった。

ただ、彼は選択肢を残した。


リアは、その背中を見つめながら立ち尽くす。

魔族としての道に戻るのか。

それとも、理解できぬ者たちの側に、あえて踏み込むのか。


夜の帳が降りる中、リアは一歩、足を踏み出す。

それは、生まれて初めて自分の意志で選んだ一歩だった。

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