一
かつて世界は一つの大陸——パンゴアであった。
大地も海も空も、生命さえも、そのすべては女神ジオヘルナの手によって創られた。
だが、その楽園は終わりを迎える。
宇宙より飛来した謎の存在が、大地を、空気を、命の営みを汚染し始めた。
女神は世界を二つに分けた。汚染された地は「魔界」、清浄なる地は「人間界」。
そして魔界に残された者たちは、やがて「魔族」と呼ばれる種となり、人間を深く憎むようになる。
——時は流れ、今。
「斬れ。女も、子も、容赦するな。ここは“奪われた我らの土地”だ。」
燃え上がる村に、号令が響く。
リアは、その声の主を見つめながら、震える手で剣を握りしめていた。
自分は魔族。
魔王アポカリスに忠誠を誓い、魔王軍の一兵として戦っている。
それが「正義」だと、教えられてきた。
この地——ヴルガータは、かつて魔族の故郷。奪われたものを取り戻すのは、当然の権利のはずだった。
だが。
リアの目の前で泣き叫ぶ人間の子供。
その傍らで既に冷たくなった母親の亡骸。
仲間たちは笑いながら家々を燃やし、逃げ惑う者たちに刃を振るう。
「なぜ……私たちは、こうまでして、憎まねばならないの……?」
その問いは、誰にも届かない。
魔族に「慈悲」などという言葉は存在しないはずだった。
だがリアは、それを抱いてしまった。進化の過程で捨て去られたはずの、「人間の心」を。
遠く、空を裂くように、白銀の剣が舞う。
人間界の騎士が村に到着したのだ。
リアは剣を構える……だが、その手は、もはや戦うためのものではなかった。
自分は、何者なのか。
この戦争に、意味はあるのか。
そして、ジオヘルナは、なぜ自分たちを見捨てたのか。
問いと矛盾を胸に抱え、リアの戦いは始まった。