欠落世界の君と僕。2.『欠落達』
学校での生活…上手くいくかな…そう言えば、学校はどうやって行くんだろ…
とある夢を見た
見た、と言っても何となく感じるだけなのだが。
その夢は誰かが僕の右腕を握って泣いている。
顔が見えない。
ただひたすらに啜り泣く音だけが聞こえて居た。
僕はハッとベッドから身体を起こした。
いつもと枕や布団の感覚が少し違う。
きっとここが学校なのだろう。
両親から聞いた話によると『学校』では
『教室』と言う場所で集団で暮らすらしい。
持っている欠落によってクラス分けがされているのだとか。
一クラスに同じ欠落を持つ人物は居ないのだと言う。
ベッドの軋むような音が聞こえた。
近くで誰かが動いたようだ。
???『…亀はハムスターの代わりにはならないよ…ん…』
女の子の声が聞こえる、何やらとんでもない夢を見ているようだ。
何をどうやったら亀がハムスターの代わりになるのだろうか。
そんなどうでも良い疑問を抱えていると。
???『…ん…わっ!!』
どうやら起きたようだ。
挨拶でもしてみよう。
光声『えっと…おはよう…』
???『…?』
10秒ほど待っても返事が無い。
口を欠落しているのだろうか?
だとしたら寝言なんてものは無いはず。
だとしたら…耳?
だとしたら、あんなにハッキリと寝言を言えるものだろうか…?
???『…あっ…おはよう…?』
だが。恐らくビンゴだろう、明らかに反応が遅かった。
ふむ…だとしたら困った、どんな風にコミュニケーションを取ろうか。
彼女は耳、僕は目を欠落している。
最悪のコンビじゃないか。
朱里『名前…朱里…ですっ!』
唐突だが名前をちゃんと教えてくれた。
声的に明るく純粋な子なのだろう。
さて、どうするのが正解か。
ここで名乗ってもどうせ耳には届かない。
…まてよ?
確か耳に欠落を抱えている子は、人の口の動きである程度何を言っているか分かるらしい。
試しに伝えてみようか。
光声『ぼ、く、こ、う、せ、い』
ゆっくりと伝えてみた
朱里『ろ、く、ぼ、う、せ、い…?』
一切言っていない。
そもそも何故自己紹介の返答が六芒星なのだ。
頼むからそこに疑問を持ってくれ。
???『おーい!起きてるか〜?ガキども!』
ドアがガラガラと開く音と共に大人の男性声が聞こえてきた。
恐らくセンセイと言うものだろう。
センセイは国に認められた『人間』で欠落の教育者のようだ。
それにしても。
ガキ呼ばわりされたのは人生で初めてなのもあって、少しムッとしてしまった。
センセイの声に反応して
近くから他に三つほどベッドの軋む音がした。
恐らくこの三人も僕と同じ『生徒』なのだろう。
???『あー…太陽。頼む。今、この瞬間だけでもいい…死んでくれ』
少し低い男の子、では無く漢、と言う声だ
どうやら朝にはめっぽう弱いようだ。
???『そんな熱そうな髪の色してるのに。太陽嫌いなんダ〜…でも、ボク的にもそれありかもネ?』
僕…と言う一人称で引っかかってしまったが、どうやら女の子の声だ。
もしかしたら中性と言うものかもしれないだが、姿形が見えない限りよく分からない。
???『もしも太陽がなくなったら地球は急激に冷え-200℃ほどの気温になると言われてるよ。一般的に0℃以下の低温になると生物は……』
くどくど語っているこれは男だろう。
いわゆる『オタク』と言うやつなのか…?
16歳にして、世界は広いものだと深く実感した。
ミカド『おいガキども!そんなどうでも良い話題よりは自己紹介が先だろ!センセイの名前はサカヅキ=カグラ=ミカドだ!元気にやっていこうぜガキども!』
口調が少し悪いだけで良い教師のようだ。
ガタイがとても良い声をしている。
センセイの名前が僕たちと少し違うのは聞けば分かるだろう。
王族なのだ。
王族の名前は
苗字、二つ目の名前、名前
と、合計三つなのだ。
これは王族と欠落を分かりやすくする区別なのだろう。
???『おっし!センセイが無駄にデカい声を出してくれたおかげで目が覚めたぜぇ!』
太陽死ね死ね君が元気になった。
完全に目が覚めたのだろう。
翔太郎『俺の名前は紅咲 翔太郎!紅色が咲き誇るんだ!どうだ!?綺麗だろう!』
自分の名前を相当気に入って居るみたい。
事実少しカッコイイと思ってしまった。
翔太郎『持ってる欠落は左足だ!翔。だなんて漢字が名前にあるのにな!はっはっはー!』
???『自分の子供に欠落が。関わる名前付けるのカ。別に否定する訳では無いガ…凄い親だナ…』
翔太郎『確かにもっと小さい頃はこの名前に悩んでいたが…いつか!王族になって、世界を翔事が出来ると言う信頼の現れだと思えばむしろ誇らしいぞ!!』
この翔太郎と言う子は多分何事もポジティブに物事を捉えて居るのだろう。
その性格が少し羨ましいなと思ってしまった。
翔太郎『そんな事より!お前の名前はなんなんだ!白髪!』
白髪…?
親曰く僕は黒髪なので違うはずである。
じゃあ誰だ…耳の子か、残りの二人か。
悠『ボクは彩音 悠ダ。欠落は肺だヨ、片方無いせいで運動も出来なイ。それに、一度にあんまり長く話せないんダ』
白髪はどうやらボクっ娘の様だ。
だが肺とは…なんとも絶妙に生活しずらい欠落を持っている物だ。
悠『それデ。あとはそこの三人。だナ。』
誰から自己紹介をするかの空気読みが始まってしまった。
果たしてそもそも朱里と言う子は状況が分かっているのか。
調『僕は言葉 調と申します。欠落は左の腕ですね。恐らく左腕があれば僕は左利きだったでしょう。なぜなら僕は……』
悠『うわ…またカ…』
翔太郎『欠落は本当に腕なのか…?話のブレーキが欠落してるんじゃ…』
ちょっと失礼な事を言って居る気がしたが僕も内心そう思っていた。多めに見よう。
見る目は無いが。
そろそろ僕も自己紹介をしておこうだけどその前に…
光声『センセイ…多分朱里って子。耳が欠落してるからこの自己紹介全部意味ないと思いますけど大丈夫ですか…?』
ミカド『な…っ!?いや確か名簿にもそう書いてたな…分かった!今までのお前たちの自己紹介を黒板に書いて貰おう!』
悠『エ…面倒なんだガ…』
翔太郎『まぁ仕方ないだろ!聞こえないんだ!任せとけぇ!俺のこのカッコイイ漢字を見せつけてやるからなぁ!』
調『それでは僕も事細かく書くとしましょうか…』
翔太郎『お前…限度は保てよ』
調『ふふ…善処します』
おそらく善処しない笑い方だ。
光声『あの…僕の欠落は目なんだ。だから誰か代わりに書いてもらっても大丈夫かな…?』
翔太郎『おうよ!バッチし任せろ!』
恐らく親指でも立ててくれているであろうほど元気な返事に僕は安堵した。
光声『それじゃあ…僕は夜空 光声欠落は…さっきも言った通り目だよ。完全に何も見えない』
悠『生きていく上じゃボク以上に不便だナ…』
光声『あっ…だけど、スマホにメールを送ってくれれば、その文章をこの耳についてる機械がモールス信号に変換してくれるから、一応メールのやり取りは出来るよ』
調『ふむ…少しその機械を見せてもらっても良いかな…?』
光声『ごめんちょっと無理』
調『えっ…』
そりゃそうだ。分解されたり、変な機能が追加されたらたまったもんじゃない。当然嫌だ。
翔太郎『よし…それじゃあ…最後!そこの水色髪の!』
どうやら亀ハムスター六芒星ちゃんは水色髪の様だ。髪色を聞いても、色を知らないので分からない。だからこそちょっと気になるのである。
朱里『私…真昼 朱里。耳。欠落、です。』
黒板か何かに自己紹介をしろと翔太郎が書いたのだろう。
拙い言葉だが確かに分かった、やはり欠落は耳みたいだ。
翔太郎『耳か…光声と同じぐらい生活しにくそうだな…』
悠『まぁ欠落なんテ、そんなもんでショ』
こうして生徒の名前と欠落は分かった。
夜空 光声 目
真昼 朱里 耳
紅咲 翔太郎 左足
彩音 悠 肺
言葉 調 左腕
だ、そうだ…これから暮らして上手く暮らして行けるか少し不安なメンバーだが、頑張るしかない。
と、心に決意を抱くのだった。