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【短編】異世界恋愛!

私の婚約者の皮算用。

作者: ぽんぽこ狸






 私がやってきてすぐに、婚約者のレイモンはとりあえず食事をしながらゆっくりと話をしようと誘ってきた。


 しかしそんな悠長なことは言っていられないので部屋へと通してもらった。


 屋敷の中はなんだか雑然としていて、三人も人が亡くなっているので忙しくしていて当然だとは思うが、それを気にしている暇はない。

 

 今日ここにやってきた要件を知っているレイモンはとても緊張した表情で私を見つめる。


 ソファーに座るように指示をされて、私はそばに持ってきて来た大きなトランクを置いて彼と向き合って座った。


 それから急いでトランクの中から婚約に関する書類つづりを取り出して使用人が飲み物を出してくれるのを確認して、すぐにそれをテーブルの上に置いた。


「さっそくで悪いんだけどレイモン様、婚約破棄をしてください!」


 レイモンへと書類を向けてはっきりと口にした。今日この屋敷に来る前に一応、要件を伝えておいたので彼も心の整理をつけてくれているはずだと思う。


 思うというか、そうでないと困る。こんなことになってしまって本当に心苦しいが、そうする以外に方法がない。


 焦る気持ちでレイモンを見つめるが、彼はとても難しい顔をしていて普段の優しげな雰囲気はなりをひそめていた。


「ステファニー、手紙でも返信をしたけれど、あまりにも性急すぎないかな」


 しばらくの逡巡の後にレイモンは静かな声で言った、その言葉には私を責める様なニュアンスも含まれていたと思う。


 責められるのはわかっていた、しかしもう時間がないのだ。


 手紙の返信も読まずに自分の屋敷から飛び出して、このレイモンの住んでいるオリオール公爵邸にやってくるほどに私は焦りに焦っている。


「お手紙の返信は読んでませんっ。ごめんなさい、とにかく急いで婚約を破棄してもらわないといけないという事しか頭になくて!」

「……」

「書類の説明をしますね! この一番上の書類が目録になっていて……」


 彼の話を聞かずにペラペラと書類つづりをめくっていって、彼に見えるように説明をしていく。


 相槌も聞こえないし質問もなくて、ちゃんときいているのかと心配になったがそれでも急がなければ、いつ結婚してしまってもおかしくない。


「重要な書類は紐を通せませんから封筒に入っていまして、万が一の婚約破棄用によういされている書類はこれ一枚です!」

「……」

「これに今までの契約の内容と……あ、この番号とそれからサインが必要になっていまして、すでに私はサインを済ませていますから、今ここでレイモン様のサインさえ貰えれば、すぐにでも王宮に出向いて婚約破棄の書類を提出してきます!」


 言いながらも私は少し手間取りながら、婚約破棄に必要な書類を出して目の前にいるレイモンに向けて差し出した。


 彼はそれを無言で受け取った。それにホッとして「助かります」と口にしようとしたところ、真顔で彼は書類を縦に真っ二つに引き裂いた。


 ……!!


 それだけではなく、さらに重ねて半分にちぎって、さらに重ねて半分にして繰り返していくといつの間にか小さな紙きれ同然になってしまって、驚きすぎて目玉が零れ落ちそうだった。


「ふぁぁあああ??!!」

「……」

「えっ、えええ??!!」


 紙切れをレイモンはテーブルの上にばらばらと散らして、それを見て私は手がわなわなと震えてしまって、大切な書類が紙吹雪になってしまったことに戸惑いを隠せなかった。


 なぜ、というよりも、どうしようという気持ちの方が大きくて、あわあわと両手を動かしながら紙吹雪を二枚つまんで焦りに焦って、それらが書類のどこの部位なのかじっと見つめた。


 しかし細かくなっているせいでまったくわからない、しかしそんなこと言っていられないだろう。


 びりびりになっていても書けるはずだ。後ろに紙を敷いて糊付けすればきっと何とかなるはず。


「……」

「……」

「……レイモン様」

「……」

「糊とかありませんか??」


 絞り出すような声で聴くと彼は、難しい顔をしたまま、また長考してそして大きなため息を一つついてから「あるけど」と冷たい声で言った。


「とりあえず話をしようか。ステファニー、君、自分の都合だけを優先しすぎだよ」

「!」

「納得できるまで婚約破棄なんかしないし、少しは私の事も考えてほしい」

「……」


 冷静に言う彼の言葉に、さぁっと血の気が引いていく。


 どうやら怒っているらしい事が今更ながらに理解できて、説明しても相槌の一つすらなかったのはそういう事かとやっと納得した。


 しかし、気がついたのはいいものの、もう目の前にいる彼は相当怒っている様子で、焦りまくってた私が全面的に悪いのだが、どうにかしたくて媚びるように彼を見た。


「まず、状況の確認からさせてもらうけど、きっかけは私の家族が父、母、弟の三人全員が死んだことで合ってる?」


 はっきりと聞かれて、なんだかそう言われるととても私が不謹慎なことをしているような気がして気まずくなりながらもこくりとうなずいた。


 それにさらにレイモンが怒っているような気配を感じたけれども、視線を泳がせることしかできずに膝の上で拳を握った。


「父であるオリオール公爵、母のオリオール公爵夫人、弟のウォルター彼らがウォルターの洗礼の為に地方の高名な教会に向かっているときに何者かに襲われて命を奪われた」

「……はい」

「で、それと君が私と婚約破棄を望むのはどういうつながりがあるのかな」


 質問口調ではあるけれど、レイモンは続けて私をにらむようにしながら言った。


「私がオリオール公爵の爵位を継承できるか不安? それとも父や母を襲った何者かにステファニー自身が襲われるのが怖い?」


 聞かれるけれど、そんなのはどちらもあり得ないと知っているだろう。


 なんせこうして婚約破棄しようと考えるまでは、マメに手紙のやり取りをしていたし、彼は間違いなく公爵の地位を継承できる。


 それに馬車を襲った犯人は、きちんと捕らえられているから脅威でもなんでもない。


「……もしくは、こんな悲劇のさなかにいる男の元に嫁に来るのが嫌になったとか。君には事件の事は色々話してあったから、その線が一番濃厚だね」


 ……嫌になったって……。


 彼は、怒りを収めて少し悲しそうに声を暗くしてそう口にする。


 それをすぐに否定したくなったけれども、だからと言ってじゃあなんでだと聞かれると説明するのが難しい気がして言い淀む。


 するとそれを肯定の沈黙と取ったのか彼はハッと笑い声だか、ため息だかわからない声を出して、おもむろに立ち上がった。


「そうか、もう私も君も成人の儀を終えている。オリオール公爵の地位を正式に継承してから婚姻をしようと思っていたから、たしかに婚約を破棄するには今しかないね」

「……それは、そうなんですけど」

「もしかして、事件があってからこうして落ち着くまでの間、婚約破棄を言い出さずに待っていてくれていたのかな。私も落ち込んでいたし」

「えっと」

「でもいざ結婚が間近に迫るとこんな男と家族になるだなんてありえないって考えたのか。天涯孤独になった荒んだ男を支えて生きていくなんて君も嫌だったんだね」


 喋りながら彼は、ゆったりと歩いて対面に座っていた私の方へとやってくる。


 それから気がつくと私は天井を向いていて、それに覆いかぶさるみたいにレイモンは上から私を覗き込んでいた。


 ソファーの座面に押し倒されたのだと気がついたけれども、上手い対処法は思い浮かばないし、レイモンの手がするりと頬を撫でる。


「……ステファニー、それでもノコノコと私の元にやってきて婚約破棄を願い出るなんて、あまり賢い選択ではないよ」

「……」

「君と違って私にはもう心を許せる相手は君しかいないんだから手放すはずないだろう? ……このまま既成事実でもなんでも作って手遅れにしてしまうか、そうすれば君もあきらめがつくよね」


 そうつげてレイモンはするりと手を動かす。


 頬に触れていた手はゆっくりと移動して私の胸をやさしくなでた。


「っ、そんなの駄目っ!!」

「はいはい、文句なら後で聞くから少し我慢してね」


 今更ながらに危機感を感じて慌てる私に、仕方のない子供を相手にするみたいにレイモンは言って、彼を押しのけようとする手を掴んだ。


 当たり前のことだが彼は男性で、私は女だ、基礎的な腕力が違うし、この状況から脱出する手段もない。


 魔法を使えば話は別だろうけれど、魔法を持っていない彼にそんなことは絶対にできない。


 ……っ、こうなったら恥ずかしいけれど、言うしかないかもしれませんっ。

 

 ぐっと手をソファーの座面に押し付けられて、軽く耳に小さなリップ音がして心臓が爆発しそうだったが何とか堪えて顔の前に腕を持ってくる。


「ち、違うんですっ、レイモン様! そういう問題じゃなっくて」

「珍しく強情だね。そんなに私と結婚したくないのかな」

「違くて~っ」


 説明せずに説得しようとしてもレイモンは聞く耳を持たずに、やっぱりあきらめてくれそうにない。


 仕方なく顔から火が出そうなほど恥ずかしかったが、観念して言った。


「っ、家族がっ、私の家族がレイモン様の皮算用してまして!!」

「……?」


 そういうと彼の行動は一度止まった。止まってから少し考えてレイモンは私の上で首をかしげて聞き返すように私を見た。


 ……ああぁ、恥ずかしいっ!


「だから、皮算用ですっ、皮算用っ。捕らぬ狐の皮算用って言葉があるでしょ! その皮算用です」

「……私の皮算用って……ごめんね。何が言いたいのかわからないんだけど」


 レイモンは変な子を見るような眼で私を見ていて、それに心底恥ずかしくなりながらも説明するために腕越しに彼を見て続けて言った。


「私の家族が、レイモン様を手に入れたら、どんな風に豪遊しようかと画策していたんです! 私、ニュアンスで伝えるとかできるほど言葉がうまくないのでそのまま言います!」

「うん」

「私の姉がまず、レイモン様のご家族の訃報を聞いたときに、よくやったとなぜか私を褒めました」


 思い出したくもない事だったが、それが今まで普通だと思っていた私の家族の化けの皮が剥がれた瞬間だった。


「これで飼い犬のプディングちゃんに新しい犬小屋を買ってあげられるといい始めて、もちろん平民の犬の小屋みたいなものではないですよ、家くらいはあるやつです」

「……うん」

「次に母は王都の店にいって領地の収入全部使ってドレスを買い占めてきたんです!」

「……」

「父である、フォルジュ子爵も私の事をほめてフォルジュ子爵領中から大工を集めて新しいお屋敷の建設を始めさせたんです」


 彼らは金の亡者だった。


 驚くべきことに私の婚約者が孤独になったことを喜び、金を搾り取れると喜び勇んで大盤振る舞いを繰り出すような人間だった。


「お金はもちろんありませんっ。よく考えてみるとあの人たちは可笑しいんですよ。だって私の結婚だって、より良い人や家柄との婚姻ではなく一番お金を積んだ人と婚姻だと決めていたと言ってましたし、レイモン様が居なかったら私、豪商のおじいさんのところのお嫁に行ってましたし」


 喋りだすと止まらなかった。今まで抱えてきた違和感が口からボロボロ零れ落ちて次から次に言葉が出てくる。


「レイモン様、フォルジュ子爵邸に来たことないですよね。酷い状態なんですよ私の家、大きなお屋敷はあるんですけれど、あるんですけれど……碌な部屋は一つもないんです。……借金をしていた隣の領地の兵士さんに全部持っていかれてしまって、家具も家宝も綺麗な絵画もなくてもぬけの殻、借金返済の為に貴族として暮らせる最低限の必需品はありますけど、それ以外は何にもないんです」


 その貴族としての最低限のドレスも宝石も姉の愛犬プディングちゃんのドレスにリメイクされていてプディングちゃんが庭を走り回っていた時には、流石に腹が立ったが、うちの家族はちょっと貧乏、その程度の認識だった。


「それでも私、そうしてお嫁に行くことも、ひもじい思いをしながらも家族を支えることも当たり前だって思ってました」


 人として自分が尊重されているかどうかよりも、フォルジュ子爵家の存続の為に自分を粉にして尽くすものだと教えられた。


「でも違いました。違ったんです。っ、私、レイモン様から何かを奪いたいとは思えません!」

「……」

「このまま結婚したら、私の家族がレイモン様の大切な家族と過ごしたお屋敷も何もかもすべて奪ってしまいます。ただ、まだ、彼らは“皮算用”してるだけで、実際にあなたを手に入れてはいないでしょ?」


 入ると思い込んでいる利益に踊らされて、舞い上がっている。だから私の婚約者である彼を逃がせるのは今しかない。


 だから出来るだけ早く彼とは婚約を破棄して、私はとにかくもう逃げる。


 そうしたらきっと私の家族は私を血眼になって探すだろうけれど、レイモンには手出しできない。


「今ならまだ間に合うんです。私はこのまま屋敷を出てどこか田舎にでも身を潜めます……だから……どうか婚約破棄してくれませんか」


 目の前にいる彼を見上げて口にする。


 レイモンが何を考えているのかまるで分らなかったし、呆れているようにも怒っているようにも失望しているようにも見えた。


 でもそんなのは当たり前だ。だって私の家族は、彼の家族が死んで喜んで遺産の計算を始めるような人間だ。そんな人間に育てられた私のような人間が醜く見えるだろう。


 だからこんな恥ずかしい事、言いたくなかった。


「……恥ずかしい家族でごめんなさい」


 声を振り絞って謝罪した。レイモンには迷惑をかけてばっかりだ。


 急な婚約破棄で彼の経歴に傷もつくだろう。しかし、そのデメリットよりもはるかに私と結婚をしたときの方がデメリットが大きい、それはわかってくれるはずだ。


 そう思った矢先に、はぁ、と大きなため息が聞こえてきて身が縮みあがった。


 しかし、ぐっと体を抱き寄せられて強く抱きしめられる。今までだって抱擁ぐらいはしたことがあったけれども、こんなにきつく抱きしめられたのは初めてだった。


「……なんだ」


 彼は短く言って、それから私をきちんと座らせてから乱れてしまった髪を優しく手で直して薄く笑みを浮かべる。


 そういえば彼が事件の後処理で忙しくしていて随分と会えていなかった。だからこそ、このちょっと顔がほころぶだけの優しい笑みも久しぶりに見た。


「なんだ。……そういう事か」


 安堵しているような優しい声、もう怒っている様子はなくて、私もほっとする。


 ……良かった。私との婚約破棄、きちんと納得してくれたんですね。


 寂しく思ったけれども、レイモンの為を思うならば当たり前の選択だ。


「はい。なので早速、糊を……」

「そういう事なら、君をこのまま私のものにしても問題ないね」

「……????」


 言われてぐっと手を引かれる。すると今度は抱き上げられて唖然とした。とにかく糊を探さなければと思うし、なにより納得してくれたはずなのに何故運ばれているのだろう。


「というか。丁度いい、君を人質に金銭を要求されると、とても困るけれど君がここにいるなら、何も問題ないじゃないか」


 到着したのはベッドで、半ば放られるようにしてベッドにおろされて瞳をパチパチと瞬いた。


「というか、君の両親がお金に汚い人なんてことはちゃんと知ってるし、そんなことにならないように婚約の時に王族を通してきちんとした契約をしてるし、守らない場合にはそれ相応の罰則があるんだよ、ステファニー」

「……でもっ! ああして婚約についての書類がフォルジュ子爵家にあって、それを書き換えればどうとでもできるって……」

「……それはフォルジュ子爵が言っていたこと?」


 聞かれてコクンとうなずくと彼は考えているみたいに顎に手を当てて、それからとても意味深な笑みを浮かべて私の頭を優しくなでた。


「とにかく、君が想像しているようなことは起こらないよ……それにね。そもそも私は何があっても君を手放すつもりはない」


 低い声でそういってやっぱり怒っているみたいに視線を鋭くして私の顎を掬いあげて、ベッドに膝を乗り上げた。


「私の唯一残った家族なんだ。一生手放さないように大切にして二度と失うつもりはない」

「……」


 そういう彼の瞳は暗く陰っているようで、少し恐ろしい。


 レイモンの家族が亡くなる前は、こんな切羽詰まったようなことを言う人ではなかったのだが、家族を失ったという事実が彼に暗い影を落として影響を及ぼしているのだろう。


「悪いけれど君に拒否権はないから、わかってね」

「……」


 私は、本当に家族からレイモンを守らなければと思って突発的にここまでやってきた。しかし、レイモンが大丈夫と言うのなら大丈夫なのだろうと思う。


 ……だって私、あまり頭が良くない。だからレイモン様を説得なんてできないわけで……。


 そうなると納得させることよりも、目の前にいる彼がつらそうなことの方がずっと急を要する事態に思えた。ずっと会えていなかったけれど、こんな思いのまま三ヶ月も過ごしていたなんて辛かっただろう。


 そう思ってそのまま彼がさっきしたように抱き着いた。


 私からはまだきちんとハグをしていなかったのでお返しだ。


「…………はぁ、何も分かってなさそうなところ、本当に困るなぁ」


 呆れたような彼の声がしたけれど、少しだけ嬉しそうだったので良しとしようと思う。






 私がオリオール公爵邸に転がり込んで半年が経過した。そしていつの間にか結婚していた。


 この間の舞踏会で公爵夫人と呼ばれて初めて気がついた。レイモンに確認したところ、ずっと前からそうだったと言われて驚愕したのがつい先日の事。


 というか、そもそも先日の舞踏会以外で私は一切外出していない。


 フォルジュ子爵家から匿わなければならないからね、とレイモンに言われてずっと首を縦に振っていたら、気がつくと屋敷から一歩も出ないまま半年が経過していて、やっと外出だと思えば公爵夫人になっていた。


 これは流石に呆けていてはまずいと思い、付けられている使用人の目をかいくぐってレイモンの執務室にやってきた。


 結局レイモンに話を聞くしかないのだから、使用人の目をかいくぐらなくてもよかったような気がするがそれはさして問題ではない。


 ノックもせずに中に入って書き物をしている彼が顔をあげるのと同時にテーブルに手をついてじっと見つめた。


 ここ最近は、公爵としての仕事も落ち着いてきて、それなりに休息が取れているとはいえ、まだまだ仕事の効率も勝手もわからない。


 どんなに効率よく働いていても彼は少し草臥れているように見えて、大人しくしていた方が迷惑をかけないと思うが、それでも流石に聞かずには居られなかった。


「あの、レイモン様、聞きたいことがあるのですけど」

「……どうやって抜け出してきたの?」

「フォルジュ子爵の事を聞かせてほしいんですけど」

「私の質問に先に答えてくれる。どうやって抜け出した?」


 声を低くして聞かれて、じっと睨まれて仕方なく答える。


「魔法を少し」

「……わかった、そこまでしたって事はよっぽど聞きたいことだね。それで君の家族の話?」


 私は一応魔法を持って生まれた貴族だ。


 使用人の目を欺くこともできるし、何なら実家からこの屋敷までその魔法を使ってやってきたし、魔法使いの称号も持っているのでお金も稼げる。


 いろいろとできるが、レイモンに却下されているので今は部屋で家庭教師に勉強を教えてもらうのが関の山だ。


「でも聞かない方がいいと思うな。君がどんなに彼らを気にしていても、もう会わせられないし、手紙のやり取りすらできないし、聞くと悲しい気持ちに……」

「いえ、お金もお屋敷も取られてないんなら、いいんです。私の心配したことは起こってないってレイモン様が言うなら安心できます」

「……」

「でもどうやったんですか、ちょっと不思議です」


 今まで頑なに話をしてくれていなかったので、きちんと安全が確保できてるのかという点がどうしても気になっていた。


 しかしこの言い分なら本当に問題はないのだろう。


 それならいいのだ。


 ただこうでもしないと聞く機会がないまま、なあなあに日々を過ごしてしまいそうだったから、聞けて良かった。


 それからつい、方法を興味本位で聞くとレイモンは安堵したように少し笑って、ヒントを言った。


「契約書類って流石に控えがあるものだからね」

「……??」

「いいよ、君は私が何したのかなんて知らなくて、それより今日は早く仕事が終わりそうだから部屋で待っていて、一緒に眠ろう」

「はい」


 彼の優しい手のひらが私を撫で心地いい。


 聞きたいことは聞けたしレイモンと一緒に眠れるのは楽しみだが、実はもう一つ聞きたいことがあった。


 ……レイモン様って私を子供だと思ってますか。


 結婚してるのに本当に一緒に眠るだけが健全ではない事は、流石に私も理解しているし知識もある。


 しかしその質問だけは今日もできずに、今日も今日とて私とレイモンは同じベットでぐっすり眠ったのだった。






 最後まで読んでいただきありがとうございます。評価をしていただきますと参考になります。



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― 新着の感想 ―
[良い点] ざまあを具体的に書かないで、ヒロインが婚約者の腹黒に気付かないままほのぼのと終わるのがいいですね。
[気になる点] >「だから、皮算用ですっ、皮算用っ。捕らぬ狐の皮算用って言葉があるでしょ! その皮算用です」 狐じゃなくて…狸では…? 異世界だから…狐⁇
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