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無職少女ラブリィベル  作者: わさび醤油
言葉と拳のダブルファイト!!
37/53

全員集合

 なんやかんやあり、最近頑張った全ての事柄を茶番に変えながらも、ようやく魔法少女イナリこと狐峰(こみね)めいと再会することに成功した鈴野(すずの)

 実に八年ぶりだというのにまるで変わらない、何なら余計に酷くなっている女を目の当たりにした鈴野(すずの)は、再会してからまだたった十数分だというのに疲れ果ててしまっていた。


「それにしても狭い部屋だねー☆ それに煙草臭ーい☆ あーでも、これくらいの方が愛を密接に感じ合えてグッドだよね☆ おぉーえちえちなパンツ☆」

「……息をするように人の部屋の非難するな。そして私のシャツを、パンツとブラを漁るな。さもなくば死ね」

「だってー☆ 八年ぶりの接触解禁だよー? あの日以来、悶々悶々もんもんと死んだように生きてきたんだから抑えなんて効かないし効かせたくなーい☆」


 苛立ち塗れな鈴野(すずの)の言葉に聞く耳持たず。

 それどころか更に散らばっているシャツを掴んでは吸い、恍惚やら陶酔したように顔を緩めるイナリ。

 そんな女を前に、鈴野(すずの)は大きくため息を吐きながら、新品の煙草を吸おうとデスクに置かれた白い箱を徒労と腕を伸ばして──。


「はい禁煙☆ ひめちゃんの匂いは世界一☆ だからしけた煙で燻らせちゃノンノンだよ☆」


 その直前。

 いつの間にか、欠片の挙動もなく隣接した金狐の魔法少女は、伸びた鈴野(すずの)の手をそれはもう優しく掴んで制止してしまう。


「……相変わらず出鱈目だな。鈍ってないのかよ」

「でしょー☆ ボクの祈りはひめちゃんへの愛がある限り不滅なんだ☆ 褒めて撫でてチューもして☆ そして行き着く先はベッドイン☆ きゃっ☆」

「死ね」


 勢い任せに振り払い、そのままイナリの腹へと拳を突き刺す鈴野(すずの)

 躱す間もなく直撃し、野太い声を出しながら崩れ落ちるイナリ。

 だが顔には苦痛はなく、むしろ快感であると言わんばかりに「ぐふふふ」とぐぐもりながらも汚い笑い声を呻かせるのみ。


「……度し難いほどの変態め。そんで本題入っていいか?」

「えーもう終わり? もっと構ってよー☆ ボクを差し置いてバットちゃんと浮気しちゃってさー☆ ん? それともいよいよあの日の続きターイム?」

「しねえよカス。雰囲気考えろや」

「あぁーん☆ 愛の鞭が骨身に染みるぅ☆」


 深々と椅子に座り直しながら、汚物でも見るかのような視線と声をイナリ向ける鈴野(すずの)

 それを一身に受けたイナリは、痛みなどなかったかのようにけろりと立ち上がって鈴野(すずの)の膝へと座ろうとするが、押しのけられて床へと転がらされる。


「もー☆ ひめちゃんってば相変わらず照れ屋さんなんだから☆ というか、昔より激しくて嬉しい☆」

「うっさい。お前は何も変わってない。少しは成長しろ」

「したよ☆ 結構大きく育ったよ☆ インモラルとはおさらばさ☆ 見る?」

「見ない。見ないから変身を解くな。そして脱ぐな」

「はーい☆」


 次動いたら殺してやると、拳を握り鈴野(すずの)から吐かれた心底の苛立ちは込められた言葉。

 それを聞き、にこにこと笑みを浮かべながら「はーい☆」と頷き布団の上に正座するイナリ。

 ようやく落ち着いた変態に、その手に握られた自分の下着を見ないことにした鈴野(すずの)は、座る姿勢を直してから一息ついた。


「そんでお前に頼みたいのは人捜しだ。犬野郎の居所を探してくれ」

「え、(いぬ)ちゃん? 何でまた?」

「あれの封印が解ける。その前にしょうもない阿呆をやらかそうとしているらしい。だから、その前に会って話してぼこしてやるためだ」

「あーあれ☆ そっか、もう解けちゃうんだ☆ じゃあ日本は終わりだね☆ 南無南無☆」


 世界はどうだろー、なんて何一つ変わらない、他人事みたいな口調で考えているイナリ。

 そしてそれは間違いではない。

 冷徹、薄情、無関心。愛嬌と快活と性欲で固められたイナリの本性は徹底的な虚無。初めて出会った頃からと何も変わることのない究極排他的平等思考。例外があるとすれば、自分で言うのもあれだが私だけだ。


「じゃあまたあれに挑むの? 十五人でも、畜生ベルがいても封印が手一杯だったあれと、あの日の敗北者であるたった五人で?」

「私は強制、お前らは自由参加だ。……それが私の、ベルベットの弟子としての最初で最後の責務だからな」

「そっか☆ じゃあ頑張って死のうね☆ 集団自殺なだけにはならないように☆」 


 それはまるで当たり前だと、寸分の迷いもなく鈴野(すずの)を肯定するイナリ。

 鈴野(すずの)を見つめる星を宿した黄色い瞳。その二つに欠片の嘘も打算もなく。

 真っ直ぐに、汚れなく、揺らぎすら生じない一念。別れたあの時から微塵も変わることはない、言動は欲望塗れで汚いくせに誰よりも高潔で尊く儚い女こそがイナリという魔法少女。

 永遠を生きる老少女が「一途」と称したその女に、重い想いの矢印を向けられている鈴野(すずの)は、それを異常と思いつつも嬉しく思ってしまっていた。


「……いいのか? Vで儲かってるんだろ? 人生充実してるんじゃないのか?」

「愚問だよ☆ ひめちゃんのいない世界に意味や価値なんてないでしょ☆ ひめちゃんこそ世界の全て☆ だから当然だよ☆」

「……悪いな」

「み゛っ☆ もしかしてデレた? もしかしてこれ☆ 個別純愛イチャラブチュッチュルートフラグ解放されちゃった!?」

「やっぱり死ね発情猿。そういうとこだよ」


 多少絆されたの自分を恥じながら、話は一段落したと少しだけ力を抜く鈴野(すずの)

 押しかけてきたとはいえ来客だしと、二人分の夕食を準備しようとスマホで適当な出前を探し始めたのだが。


「それで犬ちゃんだっけ? オッケー☆ 今からでいい?」

「はっ?」

「じゃあいっくよー☆ かしこみー☆ かしこみー☆ はいパチン☆」


 そんな鈴野(すずの)をよそに、布団から立ち上がったイナリは唐突に手を叩く。

 その直後、鈴野(すずの)を取り巻く世界は一変し、自室から夜の空へと移り変わってしまう。

 唐突に、予兆もなく、誰かの意志など関与せず。

 瞬き一つ分の刹那よりも早く、鈴野(すずの)とイナリはがらりと夜天へと放り出されたのだ。


 しかしこれは転移にあらず。結果として転移になっているだけの移動に過ぎない。

 イナリは『自室から夜の空に移動したという結果』を手繰り寄せ、その結果鈴野(すずの)とイナリの二人は零秒の移動を成立させただけのだ。

 姫への祈り(ラブパワー)。それが魔法少女イナリが行使する、恐らく新旧全ての魔法少女の中でも一番であろう反則魔法。

 その効果は実に単純。本来の過程を曖昧にしながら魔力で代替し、望むままに結果を手繰り寄せる。ただそれだけ。

 空の箱に手を入れれば、どこからともなく求めた物を出してくるが如きその魔法。

 魔力と想像力さえ伴えば不可能すら可能に変えてしまう、実質全能とまで言っていい魔法さえ嘲笑う魔法である。


「おまっ、いきなりすぎんだろ!?」

「てへっ☆ どうせなら全員呼ぼっか☆ アイラブひめー☆ はいパチン☆」


 空に投げ出され、それでもすぐに変身してその場へと留まる鈴野(すずの)

 そんな彼女の叱咤を笑い流したイナリは更に手を叩き、静寂なる夜空へと拍手音を木霊させる。


「なっ」

「ん?」

「は?」


 そして直後、新たに夜空へと招かれた三人の人影。

 一人はジャージ姿で汗を掻き、一人は茶碗と箸を手に持ち、そして一人は水の中で全裸で優雅に足を伸ばしている。

 いきなり日常から切り離されたそれぞれが困惑と呆然を顔に抱えたまま、そのまま空から──先に飛んでいる二人の側から落ちていく。


「はい全員集合☆ というわけで同窓会だよ☆ みんな久しぶりー☆」


 イナリの快活な、それこそ毎日会ってる友人への挨拶みたいな気楽な声。

 夜空に似合わぬ、何の悪びれもないその挨拶に、三人は三者三様の表情を貼り付けながら変身し、鈴野(すずの)らと同じ高度まで上がっていく。


「イナリてめぇ!! どういうつもりだごらぁ!?」

「……どういうつもり迷惑狐。私の憩いを邪魔するなんて、ぶっ殺されてもいいようね?」

「そんなに怒らないでよ犬ちゃん☆ ほら、(うさ)ちゃんも皺増えちゃうよ☆」

「まいったのう。ワイドショーがいい所だったんじゃがのぅ」


 分かりやすい怒り具合でイナリの胸ぐらを掴む、探偵風な紅髪犬耳の魔法少女。

 そこまではせずとも絶対零度の視線と口調でイナリへと詰め寄るのは、うさ耳を生やした銀髪青目のゴスロリで、少女というには大人びた風貌をしているアンバランスな少女。

 そして一方、二人の一歩後ろで悩ましげに肩を落とすも鈴野(すずの)に気付き、手を振りながら側へと寄っていく、深緑の着物姿の老少女。


 順にレイドッグ。ギアルナ。そしてエターナル。

 鈴野(すずの)──ベルとイナリを含めた五人、旧世代の全員がここに再会を果たした。


「……上手くやったようじゃのう(ひめ)ちゃんや。しかしまさか、(わし)の永遠結界を突き抜けてまで喚ばれるとは思わんかったぞ?」

「いらない傷を負ったけどな。……しかしやべえなあいつ。衰えるどころか逆に冴えてるんじゃねえの」


 殺意を混ぜつつ空でじゃれ合う三人をよそに、エターナルと話す鈴野(すずの)

 ねぎらいのこもったその言葉に鈴野(すずの)はつい顔を逸らしてしまうも、直後に横から飛んできた歯車を紙一重で回避し、飛んできた方向へと視線を向ける。


「何他人事みたいな面してるのよ。ノイズ、この迷惑狐はお前の差し金でしょう? 釈明の余地無く諸共に散りなさいよ」

「いやごめんて。だが私を恨むのは筋違いだぜギア……可憐なる怪盗夜凪(よなぎ)?」

「っ!! その忌々しい、恥ずかしい名で呼ぶなって!! 黒歴史だっつーの!!」


 連続して投げられる無骨な歯車を軽やかに避けながら、両手を合わせて謝る鈴野(すずの)

 わいのわいのぎゃあぎゃあ騒ぎながら、そうして数分程回避を続けているとようやく大人しくなったので、最後に投げられた歯車を足で押さえてその上に座り込んだ。


「しっかし変わんねえなぁ。引き継ぎはもう済んだのかよ?」

「おかげさまでねっ!! ……で、何の用なの一体? わざわざ鏡界(ホール)まで喚ぶなんて。無職のノイズと違って私は明日も仕事あるんだけど?」

「それなんだが、お前にはない。……痛い痛い蹴らないで、本当に事故なの。ほらイナリ、それはもう丁寧に気持ちを込めて謝れよ」

「ごめんちゃい☆ でも理由はあるよ☆ これからひめちゃんと犬ちゃんがバトるだろうから、結界維持に協力してもらいたいから☆」


 鈴野(すずの)に頭を掴まれたイナリは舌を出し、軽い口調で謝罪を口にする。

 最早煽りでしかないその態度に、ギアルナは肩を落としながらもイナリの言葉に首を傾げた。

 

「……ちくったなババア。予想通りだが、まさか本当に裏切られるとは」

「悪いとは思ったがのう。じゃが予め言うておったはずじゃ。儂は邪魔も干渉もしないと」

「十分、ってか最高に邪魔してるだろうが。少なくとも、この馬鹿共が最大の障害だぜ」


 エターナルに苦言を呈しつつ、一点──鈴野(すずの)を睨み付けるレイドッグ。

 忌々しいものを、けれども懐かしいものを見るかのような感傷の籠もった視線に、鈴野(すずの)も真っ直ぐに見つめ返しながら正面へと移動する。


「……よう、久しぶりだな犬野郎。調子はどうだよ?」

「死ぬほど最悪だよ。大事の前に、むかつくほど脳天気な連中の顔を見せられたんだからな」


 久しぶりの、実に八年ぶりの軽口の応酬。

 重さはあるが張り詰めているわけでもない、他人が目にすれば不仲なのかなと察する程度の緊張感。

 そんな空気の中で桜色と紅色の魔法少女は、互いにそれが当たり前のように目を合わせる。

 

「……なに? おまえらまた喧嘩してんの? 阿呆なの?」

「この前話したじゃろう? あの件じゃよ。だから責めてあげんでおくれ」

(うさ)ちゃんほんと鈍感ー☆ そんなだから一生彼氏出来ないんだよー? やーい行き遅れー☆」

「うっさい! 黙ってろ変人筆頭! 真面目に働いてればいつかは巡りも訪れるわよ!」

「ほれほれ二人とも。今シリアスなんじゃから暫し止まっとれ」


 軽く指を向け、雰囲気ぶちこわしでじゃれ合っていた二人の停止させるエターナル。

 姦しい声が止んで残った夜空の静寂の中で、着物の老少女は向かい合う二人を真剣に眺めていた。


「……何だよその目。言いたいことがありそうだな」

「二つほどな。だがどっちもいい。一つはもう終わったことで、もう一つは、どうせ話す気なんてないんだろう?


 そうして言葉を止め、静かに拳を構える鈴野(すずの)

 それを見たレイドッグは気怠い笑みを引っ込めながら魔力を高め、応じるように特徴的な、犬が獲物へ食い付く直前のような構えを取る。


「勝って吐かせてやる。せいぜい吠えろよ犬野郎」

「随分お前が俺に勝てるかよ。欠陥品の鐘の音が」


 互いに言い終えた瞬間二人の姿は消え、直後に拳を打ち付け合う。

 発生する衝撃の大嵐。古き時代の魔法少女の衝突が、鏡界(ホール)の空を揺るがし軋ませた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 全員集合させる無節操な狐なのに猿な人がいれば全部済むんじゃ・・・ 済まないのでこの国終わりなんですね
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