2-19ただの思い ☆
草壁は席に座る君島の方へ向き、明るい声で話し出す。
「凛紗のこと、実はあの時まで知らなかったんだよね。すっごい副会長に似てない?」
「え? あ、うん。よく見ないと分からないよね」
「だから副会長だと思って見てた人が実は凛紗ってこともあったのかなって。こういうのを落ち武者って言うんだよね?」
「言わないよ……一体凛紗さんは何に負けたって言うの……。影武者ね」
「なんだ影か」
君島は草壁を不思議そうな顔で見る。
草壁は一呼吸置いて朗らかな表情になる。
「それでさ、凛紗、良い子だよね」
「う……ん? まあ、そうかな」
濁したような返事の君島に草壁は怪訝そうな顔を向ける。
「何その感じ?」
「つい最近まで尾行されていたもので」
「そうなの? でもそれ、そこまで思ってくれてるってことでしょ」
「それは確かに。話しかけようと勇気を出してくれたんだもんね」
「そうだよ。良い子なんだよ……」
俯く草壁。
「草壁?」
君島は様子を窺う。
草壁は目を閉じて囁く。
「でも、うちにとって、君島は大事なことに変わりないから」
そう言ってから、目を開け、顔上げ、君島を真正面に見据える。
呆気に取られる君島。それを見て、草壁は一層引き締める。
「分かってるよ。うざいのも迷惑なのも重いのも。最低だよね。本当に好きなら、その人の幸せを応援した方が良いことは分かってる。それでも、うちは君島のそばにいたいって思っちゃってる。これが今うちが思っていること」
君島は呆然とし、何も言わないまま目を伏せる。
そして息を吸うとともに視線を草壁に向ける。
「訊いたら駄目だと思うけど、敢えて訊くよ。僕に、本当にしてほしいことは?」
草壁は途端、憑き物が取れたかのように笑顔になる。
「無いよ。というか君島の好きにしてほしい」
「いいの?」
「今のはただのうちの思いで、君島にも君島の思いがあるよね。それを縛りたくない。聞き出すつもりも無いよ。無理した、義理を本命とか言われるのが一番嫌だ」
君島はその言葉を噛み締めるように、深く強く頷く。
「分かった。思いは確かに伝わったよ」




