2-16決めろその覚悟
凛紗さんはというと口をパクパクさせていた。
「あ、いや、ソナくんを勧めたのは別に本当の恋人になってほしいとかじゃなくて。いやでも良いな~なんて思ってくれたりなんかしちゃったりなんかしても嬉しかったりとか」
駄目だ。本音が駄々漏れだ。
「分かりました」
凛紗さんが椅子から立ち上がる。覚悟が決まった面持ちで。
え? まさかその時?
卯月さんに至ってはただおろおろして見ていることしかできなくなっていた。
「店長? 洗い物なんて――」と草壁の声が聞こえた。
「夏休みの間、時間をいただいて申し訳ありませんが、付き合ってください! いえ、付き合わせてください!」
そう言って、凛紗さんは勢いよく深く頭を下げた。
「無いです……」と草壁の声が消えていった。
間がいいですな~。
……もう駄目か。
いや、諦めるな僕。
「え……っと、ど、どこに」
まだなんとかなるかもしれない!
「え!? あ、そうですね……映画館とか、どうですか」
「ホラーとかかな。怖くて行けないみたいな」
「あ、はい! そうなんです! とても好きなんです!」
うん! どうにもならん! 正直映画館を出された時点でそれはもうデートだからその次の質問は上ずった声にもなるよね!
「君島、どういうこと?」
まだ怒っていない。おそらく突然のことで呆気に取られているのだろう。
どういうこと、か。卯月さんもいる前でどう説明したものか……。
「ミラちゃんごめん! リサちゃんにソナくんのことを勧めたのは私なの!」
その卯月さんが先に謝った。
「リサちゃんから夏休みだけでも付き合ってくれる人がほしいって相談を受けてね。その相手はソナくんが良いって思っちゃったの。ミラちゃんに悪いことしたって思ったけど、どう話せば良いか思い付かなくて。本当にごめんなさい!」
卯月さんの下げた頭を、草壁は上げさせようとした。
「そんな、店長の君島に対する思いは知ってましたし、それに最低なことしてたあたしに気を遣うこと無いですから」
感謝しつつ卯月さんは頭を上げた。
最低なこと――僕たち三人の中から誰も選ばなかったこと?
「それにしても凛紗、だっけ。すごいじゃん! めっちゃ度胸あるじゃん!」
カウンターから半ば身を乗り出すように、羨望の眼差しを凛紗さんに向けた。
「え? あ、ありがとうございます。あの……美頼、さん。今の話、なんですけど、私――」「ううん。気にしないで」
途中で止めるように草壁が言った。
「でも……」
「じゃあ、どうしても気にするって言うのなら君島を大切にね」
「はい! それはもちろん!」
「君島も! 絶対大丈夫だと思ってるけど、凛紗のことよろしくね?」
僕に向けた表情はよく見た、ノートを要求するときの顔だった。
「分かった……っていや、まだ決めてはいないから」
「はあ!? あんなに一生懸命お願いしたのに!?」
「それは重々承知しておりますが……」
「い、いいんです! 私が無理を言っているので」
「凛紗……まあ、いいならいいけど」
まさに腑に落ちないといった表情で、しぶしぶ納得してくれた。
卯月さんのおかげでなんとか収まった。けど、夏休みまであと一週間しか無い。覚悟を決めるべきは僕自身だ。




