2-11言い分
凛紗さんはそれとして。
言い分を聴いておきたいので、その足でリュヌに向かった。
「いらっしゃいませ」
入店して出迎えてくれたのは草壁ではない同年代ぐらいの店員さんだ。僕はカウンター席に座り、いつもの如くコーヒーを頼む。
その注文の品を同年代ぐらいにしか見えないが大学生の子をもつ女性――卯月さんが厨房から持ってきてくれた。
「はい。ソナくんどうぞ~」
「ありがとうございます。……卯月さん」
「えっと……何かあった?」
居心地悪そうな様子で聞き返された。
「最近、僕のことを誰かに話しましたか?」「ごめんなさい」
何を言われたのか理解に時間がかかるぐらいには早かった。
「……な、なぜなんです?」
「いや~あはは。困っている子を見たら放っておけなくて。それにせっかくの夏休みだよ? 楽しんでほしいじゃない。そう思ったらつい」
「あの、それは理解しました。でも僕である必要はどこに……?」
「え? 同じ高校で」
「はい」
「出来れば同級生で」
「はい」
「今付き合っている人がいなくて」
「……はい」
「夏休み時間があって」
「はい……」
「突然のことにも動じない人」
「は……い」
「ね? ソナくん合ってたでしょ?」
「はい?」
ええ、暇ですとも。でも突然のお願いに対して困惑したから合ってないです。
「卯月さんが僕のことをどう思っていても良いですけど、他にいると思うんですよね。もっと適任の人が」
「そうかな? 夏休みの間だけだとしても付き合うってことになるから、ソナくんじゃないとって思ったんだけど」
「草壁のことはどうなるんです?」
「……申し訳ないと思ってる。なんて言おうかずっと考えてた」
急に暗くなった。
「それでなんだけど」
と思ったら急に切り替えた。
「ソナくん、ミラちゃんのこと避けてない?」「いいえ」
「そうだよね! ごめんね! 自分に都合の良いように見てただけだよね!」
怪しまれそうなほどの即答だったのに慌てて撤回する卯月さんだった。
合っています。さすが卯月さん。
「じゃ、じゃあごゆっくり~」
卯月さんが離れてからコーヒーを一口飲んで思い返す。
恐らくだけど、卯月さんは凛紗さんから目的の全容を明かされていない。
ましてや、僕と深町姉妹を取り巻く混沌とした状況なんて知る由も無い。




