2-5夏休みの予定
「幸恵は今年の夏休みはどうするんだ?」
一昨日の土曜日の夜。用事も済んでリビングに来た私に、お父さんがそんなことを訊いた。
「え? 勉強しに出かけちゃうかな。お母さんも大丈夫?」
テレビを見ていた両親のところに、布団が掛かっていない長方形のこたつを囲むように座りながら私は言う。
「どうぞ。いつものことだし」
お母さんは呆れ笑いのような表情だった。文化部に所属しておきながら、夏休みでもいつもと変わらず出かけるからだと思う。少しは休んでも良いと思っているんだろうな。
「ありがとう」
「それにしてもそんなこと訊くなんて珍しい。なんかあるの?」
「いや無いけど」
お母さんの問いかけにお父さんは短く答えた。
「え……そういうところ怖いから。やめて」
「引かないでお母さん。そうじゃなくて。幸恵に何かあったのかな~って話よ。なんというか変わった感じがしてさ」
「変わった? 幸恵が? 何かあったの?」
「灯台下暗しだよね。こういうの」
「うん。いつも通り」お母さんは安心して、
「あれ、気のせいか」お父さんは受け入れた。
「なんだ残念」
「でもそれでなんで夏休みの予定を訊くの?」
お母さんの質問は答えにくいものだったのか、お父さんは目を逸らした。
「まあその……気を悪くさせたらごめん。火遊びらしかったら嫌だなって」
「何それ。この暑い中?」
「うん。お母さんそういうところあるよね」
「ちょっと! 何その言い方!」
掴みかかりそうなお母さんの語気にお父さんは身構えた。
「辞書引いて辞書!」
「お父さん」
「ん?」
その体勢のままこちらを向いた。
「感じ悪くなったわけじゃないんだよね、私」
「ああ、ごめん。そういうこと言いたかったわけじゃなくて。悪いってことはないよ。じゃあ具体的にどうとか誰のおかげとかは分からないけどね」
そっか、そうなんだ。そんな風に変わってたんだ、私。
それは、明らかに――
「この間、遊園地に一緒に行った内の二人のおかげだよ」
「そうか」
どこか嬉しそうに、ため息交じりにお父さんは返事した。
「会ってみたいな。さすがに野暮か」
「あれ、男二人女二人じゃなかったっけ。……これ火遊びじゃない?」
スマホを見ながらお母さんが言った。
「お母さん。覚えたばかりの言葉を雑に使わないでね」
「男二人女二人だったよ」
私が言うとお母さんは顔を見上げ、スマホを滑らせるように落とした。こたつの天板に当たった時の音は意外に大きかった。
「……おやすみ」
「待って待って! 来てもらおうよ、その二人に! ね! 幸恵、無理に誘わなくても良いけど日頃の感謝の意味でもさ!」
「そうだね! 元から七人だもん九人でも変わらないし!」
「どうぞ。その日はいつも通りじゃないかもしれないけど……」
消え入りそうな話し方だった。明らかに私のせいで……。
「まあ、大丈夫だと思うけど」
お母さんがリビングを立ち去った後で私を励ますように言ってくれた。
「うん……。それで、本当に呼ぶの?」
「咄嗟だったから幸恵のことも考えず言い出しちゃったけど、嫌ならいいよ」
「ううん。訊いてみる。じゃあ、おやすみ」
妹たちが寝ていた部屋の布団へ静かに入ってから、最近似たようなことがあったと、遊園地の話を出した時のことを思い出した。




