1-51努力のわけ
コンピューター室に戻って撮影方法についても再度確認し、部活を終えた。
それから言われた通り喫茶店に向かった。
コーヒーを頼んだ後すぐに僕の前に草壁が置いたのは、一皿のロールキャベツだった。
「……押し売り?」
「違うし! 昨日店長と持ってきたキャベツの話してたじゃん!」
「え、タダなの? お肉は持ってきてないよ?」
「いいから。それもサービス」
「そうなんだ。なら、いただきます」
コンソメスープはサラダ油が香り立ち、野菜由来の甘みや渋み、苦みを程よく感じられる。それがよく染み込んだキャベツと肉の甘みが交じり合う。
「うん。おいしい」
「あ……まあ当然? キャベツも言うほど悪い物ばかりじゃなかったし? 西沖さん、からだったっけ。感謝しておけば」
「うん。幸恵さんにもだけど、草壁にも」
「は!? うちにはいいって! このコンソメ卯月さんの味に近づけるの結構大変だったの知らないくせに!」
相変わらず言い方がきつ……「大変だった」? 草壁が……。
もしかしてこれを作るために倒れるほど無理をしていた?
なんでこの時期? なんでそこまで急いで……
「あの、ごめ」「これ、卯月さん以外で食べるのって僕が最初?」
「え? う……うん」
草壁はばつが悪そうに顔を背けた。
じゃあ、やっぱり、明確なきっかけがあるとすれば……四月終わりごろの会話。僕が授業中に寝ることに苦言を呈し、草壁からは見返りの話が出た。
草壁を追い込んでいたのは木庭との関係でも、ましてや新城でもなく、僕の一言だったんだ。
「ごめん、草壁。無理させて」
「何が? 君島が謝ることなくない?」
「これって、ノートのことで見返」「待って待って! うぅ……」
僕の言葉を遮った口は閉じられてもごもごとしていたが、やがてその内圧に耐えきれずに解き放たれようとするのが見えた。
「あーもう! そうだよ! 君島にも原因あるから! あれで急いでお返ししなきゃって思ちゃったんじゃん!」
「本当にすみません……」
「だから! ありがとう! それからごめんなさい! これまでのこと!」
「……え?」
「ずっと最低なことしていたのにいっぱい助けてくれたこととか心配させたこととか! 普通じゃ絶対伝わらないって思った。だから頑張った……のに! また余計に心配させちゃうし! 特に新城くんに会わせてくれたこと、それから優哉とちゃんと話せるようにしてくれたこと、本当にありがとう。うち前より酷いことになっているけどね」
いじらしく笑う草壁を見て、僕も力が抜けるように微笑んだ。
草壁は変わっていた。迷いも、気負いも無かった。
感謝が欲しいわけでも、謝罪が欲しいわけでもなければ。
「どういたしまして」




