1-46残る一人の決心
驚いたことに、カメラから更衣室は離れていたが、音声はある程度収録できていた。さすがに鼻をすする音は聞こえないけど。
それに気付いたのは新城がその録画を視聴したからだった。教室外の廊下の端でその間に何があったかを訊かれた。
僕がカメラを設置した直後から、コーヒーを飲みながらの会話まで。一時間程度の動画に必要な説明は誰も映っていない時間帯ぐらいだったようだ。
「うん。そうか……ありがとう」
僕からの説明を受け終えた新城は何か考えているような、あるいは何か伝え倦ねているような様子を見せた。
「何かあった?」
「いや……」
問いかけた僕の顔から一度視線を反らしたが、一呼吸吐いて視線を戻した。
「君島にこの話を聴いた時から考えていて、この動画を見て、というか一番最初に草壁ちゃんが木庭に声をかけるのを見て決めたことがありまして」
「……なんですか?」
「二人の関係を応援したい」
「え、いいの?」
「もちろん。これ以上無いだろ、この二人の関係」
「いいの……?」
「……分かってるよちょっとさみしいよ良い子だもんだからこそ応援したいって思ったんだろお前は違うのかよ!」
一息でした。
「違うはずないよ。だから草壁のためになるような行動を取ってきたんだ。これからもできる限りそうする」
「君島、お前……俺を紹介したのも?」
僕は静かに頷いた。
「マジか」
「僕も当面は二人を応援するけど、第一は草壁の幸せにすることだよ。だからこの先、新城といた方が良いと判断することもあり得る」
「そう言う君島の方が俺より良さそうだけどな。どっちでもいいか。今は木庭しかないことに変わりないからな!」
動画は大事にすると言って、新城は僕と分かれた。
卯月さんの言葉を思い出した。
新城の性格から考えて、こんな動画を見せてドロドロした感じにはならなくても、名残惜しそうな感じで手を引くだけかと思っていた。僕の想像以上に草壁は恵まれていると思い知らされた。
……それとも別れを経験し続けた彼は、どこか僕と似た思いを抱いているのだろうか。




