1-44テーブル ☆
予定通りに事が進む。僕は木庭の通過を伝えた後、裏口から更衣室に入った。
中継画面には店内の中央に座る木庭がいる。
画面脇、厨房の方から水を持った草壁が現れ、そのコップはゆっくりと置かれた。
「久しぶり。優哉」
草壁は彼の近くにいられることで安堵したかのように、穏やかな表情と暖かな響きで呼びかけた。
「なんで今日はいるんだ?」
対する木庭は顔色を変えることも目も向けることもなく、冷たく声を出した。
「騙すようなことしてごめん。でも、どうしても優哉と話したかったから」
「君島から何か言われたのか」
「言われたからじゃない。うちが話したいからだよ」
「で、なんだ」
木庭は未だ草壁から目を背けたまま急かす。
草壁は深呼吸し、一歩下がり、
頭を下げた。
「ごめんなさい! 嘘ついたこと、傷つけたこと、嫌な思いさせたこと、全部謝るから!」
これを言われて、さすがに背けていた目も引きつけられた。
草壁は構わず謝り続ける。
「こんなに避けられるとか全然思ってなかった。また前みたいに話せるって思ってた。ここに、来ることも……」
謝罪は途切れた。木庭は目を伏せ、口を開く。
「別に、距離を取ったのは嫌だったからじゃない。昔のことなんか忘れて、好きな奴といて好きなことしていられればいいって、そこに俺は邪魔だろうって思っただけだ」
草壁は頭を上げながら横に振った。
「でもな、嘘をつかれたとは思わなかった。そこまで嫌われてるとは思ってなかった」
草壁はまた横に振る。
「それほど変わっているとは考えもしなかった」
また横に弱々しく振る。
「距離を取ったのは結果として正解だと思った。変わったのに、前のような目的を失ったのに、この店で働いているところを見なくて済んだからな」
ついに振らなかった。静かに、深く、わずかに震え、息を吐いた。
「そんな風に、思わせてたんだ」
草壁の視線が下を向く。木庭の方というよりは、座っていたテーブルを捉えているようだ。
「そこ、いつも他より余計に綺麗にしようとしちゃうんだよね。……小六の夏休み、ここに連れてきてくれて、その時の私たちには高かったけど、ここの料理を食べて、すっごい驚いて、こういうのが作れるようになりたいって、なろうって約束して。あの時から何も変わってないから、すぐここだって分かったよ」
当然忘れているものだと思っていた木庭は、衝撃を受けているようだった。
同時にモニター越しに見ていた僕たちにとっても衝撃的で顔を見合わせた。卯月さんが小学六年生の僕に対して色恋沙汰を訊くほどの影響を与えたのが、草壁と木庭だったとは。
「みんなに嘘ついてること、謝らなくちゃだと思う。けど、忘れてない。約束も、目的も。ここで勉強させてもらって、結構できるようになってきたんだよ。店長だって才能あるって言ってくれてるんだから。それに」「じゃあ」
これがここに来て初めてだった。木庭が草壁を真っ直ぐ見据えた。
「今は誰が好きなんだ」




