1-41頼みの人
草壁がどんな事情を抱え、どんな思いで次々と人を変えるのか、それに櫓から聴いたことは新城と引き合わせる前の話で、今はどう思っているかも分からない。
草壁に直接訊くほか無いけど、どうやって訊いたものか……。
僕が訊いたらまた本心で話してくれないだろうし、友人にもこれまで話してこなかったのは話したくなかったからだろうし……。
もう当人に鉢合わせてもいいからコーヒー飲みながら考えよう……。ふらりとリュヌのドアを開けていた。
コーヒーを持ってきてくれたのは卯月さんだ。
…………。
「もう卯月さんしかいないかもしれないです」
「え?」
「好きなのは、誰――」「ええ!? ちょ、ちょっと待って、親と同い年だよ?」
「え……それは関係無いと思いますけど。むしろだからこそ良いと思いますし」
「子どももいるんだよ?」
「それもあまり関係無いと思いますよ?」
「でも、私、今でもレイくんのこと、好きで……」
今にも泣き出しそうな表情に変わっていた。
卯月さんの言うレイくんは夫のことだ。だからなんでそんなこと――。
今なんとなく分かった。
「ごめんなさい! なんでこうなっているのか分かりませんけどそういう話じゃないです!」
「え? トモちゃんミラちゃんと立て続けに別れて次どうしようかってことじゃないの?」
「櫓とも草壁とも卯月さんが思っているような関係じゃないんですよ……。僕どれだけ色ボケに見られてるんですか?」
「そ、そうだよね! 見た目が若いだけで子持ちのおばさんなんて好きにならないよね!」
それはそれで需要があるらしいのですが……。
泣くほどなんだ。仲良いなこの夫婦。
卯月さんが落ち着いたところで本題に入れた。
「そっか……。なら倒れちゃったりため息が多かったりしたのは、言い表せないことが増えて思い詰めちゃったっていうのもあるのかな。ミラちゃんは整理できてないのかもね」
「僕は整理がついているかいないかだけでも知りたいです」
「うん。今日訊けたら訊いてみるよ」
「卯月さん」
厨房から草壁の声。続いて、
「お願いできませんか?」
顔だけを覗かせてきた。
「あっ、は~い」
卯月さんは裏返った声で返し、厨房へ入っていった。
今日は草壁の出勤日だったために、僕たちはとてつもない緊張感の中でこの話をしていた。
……バレていないことを祈るしかない。




