1-36喫茶店での様子
「卯月さん。草壁に無理させてませんか」
残る疑問はもう一方に、単刀直入に訊くことにした。
「……何かあった?」
いつも適当な卯月さんも、こういう話は真剣に聴いてくれる。頼れるお姉さんであるのは本当だった。
「今日いきなり倒れたんです。保健室の先生は疲れが出たって。それで草壁に直接訊いたら、ここが原因らしくて」
僕の話を聴いて、卯月さんから一つ大きな溜め息が出た。
「やっぱり、無理してたか」
「何があったんですか」
「料理の勉強。ミラちゃんから言われたことだったけど、私がもう少し抑えておけば良かったね」
そう言って、卯月さんはここでのミラちゃん――草壁美頼――のことを話してくれた。
ここで草壁が働こうとした理由は、この店で、卯月さんの下で料理の勉強をしたかったから。およそ一年前、卯月さんは閉店後なら教えてあげられると言って採用していた。
今までに疲れていそうなときは止めるようにしていたが、最近ではそれを押し切って教わっていたらしい。卯月さんにもその理由までは分からないそうだ。
「一年働いてまだ無理を通さなきゃいけないぐらいなんですか」
「ソナくん。料理の道は険しいのだよ。と言っても最初からちゃんと基礎は勉強していたし、もう私のと違いないぐらいのものもあったんだよ。凄いよ~。上達早いよ」
卯月さんは有名店で修行したと聞いている。そこへ高校生の時点で近づいてまだ無理をするとは、どこへ向かおうとしているのか。
「最近では何を教えていたんですか」
「えっと、結構時間かかるものかな。そういうのって作り終えてからじゃないと何が間違ってたのか分からなかったりするし、結局分からないこともあるし」
注文を受けるため卯月さんは僕から離れた。僕はコーヒーを飲みながら考えを巡らせる。
これまで授業中に寝ていたのも、今日倒れたのも、ここで卯月さんに料理を教えてもらっていたから。草壁は学問ではなく料理に重きを置いていたから。そんなこと一度も聞いたことがなかった。言ってくれれば理解はしたのに。格好つけていたのか、気恥ずかしかったのか。
不安定な状態で相手に自分の好みを伝えるとその本人自身も意識する。櫓がそんなことを言っていた。
あるいは草壁は、自分が口にすることで自分に意識させてしまう。そのことを恐れていたのかもしれない。料理の勉強なら専門学校の方が良いと思う。それでも普通科の高校に通っているということはつまり、未だに料理を学び続けるかも分からない状態なのではないか。
卯月さんが僕の前に戻って来た。
「そうだ。あんまりこういうこと言うのもミラちゃんに悪いけど、しんじょうくん、だったかな? 彼と仲良くするようになってから無理してるんじゃないかな」
「なんでですか?」
予想外の指摘に驚いた。
「ん~、理由は分からないけど、ため息が多くなったような気がして。なんかこれまでと違う感じなんだよね」
「緊張しているとかではなく?」
「そういうことかなぁ」




