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1-33購買にて

 五日に渡るパンパシりが終わる金曜。購買というものは昼休みに込み合い、合戦もかくやという状況になるものだ。僕はそれに勝ち櫓の要望を満たすため、四時間目終了後急いで購買へと向かったのだけど……。


 すぐ目の前に、一つしか無いパンを取ろうとして手と手が触れ合う幸恵さんと油井の二人がいた。

 こんな殺伐としたところでそんな小説の本屋とか図書館みたいなことが起こるとは……。


 先に油井が掌を上に向け、

 次に幸恵さんが広げた手を突き出し、

 また油井が譲り……かけてそのパンを手にした。

 一見遠慮が無いようでいて、ここの状況を考えれば賢明な判断だと僕は思う。あと僕が二人を守るようにその場から動かなかったのが不審に思われていそうだったので助かった。すごく変な目で見られたよ。


 二人は購入して購買から離脱した。それを見て僕も人だかりを抜け出た。

「ごめん、取るしかなかったもので」

 譲り合っていたパンが差し出した。


「もう大丈夫だよ。買っちゃったし」

 幸恵さんは今買ったものを掲げて見せる。


「そうだね……。じゃあ夕飯に」


「それはちょっと考えちゃうかも……。いややっぱり大丈夫! タダより高いものは無いって言うし!」


「そうかな。一条さんは貴族だから高い方だと思うが」


「高い方? まだ高いものがあるの?」


「一番は太政大臣だね」


「政治家かあ……。人間で、しかもいなくなったら困る人だもんね」


 油井くん? それもしかして忠頼ただよりさんのことかな? 相変わらず二人の会話は独特だ……。


「福成くんは購買によく来ているの?」


「ああ。ほぼ毎日」


「そうなんだ。私はたまにしか来なくて。ここに来るといつも圧倒されちゃって」

 幸恵さんは困ったように笑う。


「そうだったか。だったら、またここで見かけたら声をかけてほしい。代わりに選び取ったりもできるだろうから」


「あ……うん! じゃあ、また」


 幸恵さんは嬉しそうに手を振って油井と別れた。油井もゆっくりと後を追うように歩いていった。


 気付くと人だかりは無くなっていた。当然のごとく櫓に頼まれていたパンも無くなっていた。

 代わりの品を渡したとき櫓に言われた一言は、「放課後ちょっと来い」だった。

 あ、悔いを残さないように残りの午後を生きます。

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