1-30田舎の観覧車
渋山市は、この遊園地が所在する榛鳴山を始めとした、北と東西の山々に囲まれている。言ってしまえば田舎である。コンビニも無エとかいうほどのものでも無いけど、ビルが林立しているというわけでも無い。
僕がこの街のことを思い返していたのは、食事の後で観覧車に乗ろうという話になったから。東京や臨海地域などにある観覧車からなら見るものもある。しかしここで一番多いのは民家。さらにこの遊園地の閉園時間は十七時だ。夜景を見るには早い。極め付けは、この山には麓へ繋がる一本道がある。つまり、そこからと大体同じ景色が見えるとしか思えない。
そう考えると、この観覧車はもう景色を見るためのものではないのかもしれない。乗るのは子ども連れの家族、あるいは、二人の男女――。
四人組の中にいる僕は一度高い所が苦手という理由で乗るのを断ろうと考えた。でも二人の性格を考えるとこのまま乗ること自体が立ち消えになるとしか思えなかった。体調不良、急用、宗教、家訓。僕自身にまつわることを理由にしても同じことだ。……冷静に考えると後の方で考えた二つ、生えるのが急過ぎて今後も心配させかねない理由だ……。
「(どうしよう櫓さん。何も思い付きません)」
僕は小声で助けを求めた。到底助けてもらえるとも思ってないけど。
「(相変わらず面倒だな。君は)」
ああ、はい。すみません……。
「(もういい。話しでもしてろ)」
このまま乗るってこと? それは櫓としても避けたいことじゃないの?
不安になりつつも列の最後尾になっていた二人の後ろに着いた。
「なんか妙な気持ちになってきた」
「妙?」
幸恵さんの呟きに油井が返す。
「ゆっくり回るものに、人間が回収されては吐き出されているみたいで」
「そう言われるとなんか怖いね、観覧車って」
「父さんのこと考えちゃうな」
「いきなりなんで!?」
唐突すぎるよ油井くん。
「わざわざ仕事に行って他人に回されて結局変わり映えしないっていう」
「その喩えおぞまし過ぎるよ……」
ほら見てくださいよ幸恵さんの顔。こんな苦々しい顔しているの見たことないですよ? ともすればこのまま会ってくれなくなる――
「確かに」
え?
「だよね」
さっきまでとは打って変わってすっきりした顔の幸恵さんに、油井は平然と返した。
もう、これでいい。
まもなく僕たちに順番が回ってきた。後ろを振り返ると櫓がいなかった。
いなかった。
「えぇ! なんで!?」
幸恵さんと油井はもう乗ろうとしていた。
なんでそんな小学生低学年みたいな――。
と、そこまで思ってやっと勘づいた。
「ごめん! 櫓探してくる! 二人は乗って!」
僕はすぐに搭乗口から駆け出した。




