5-50僕が幸せにします
目が覚めたのは、何か轟音のようなものが聞こえたからだった。
右にある窓の外を見ると、空が黒い雲で覆われて滝のように雨が降っていた。
痛む方、左側頭部はまだ冷たい。おかげで痛みは和らいできた。位置を調整しようとそちらへ視線を移すと、
凛紗さんが僕の頭に氷を当てながら、座った体勢で寝ていた。
ああ……。
この気持ちをどう言い表せば良いだろうか。
とりあえず上着をかけてあげよう。でも起こしちゃうかな。まず起き上がるのに声出しそうだし。いやこのままだと風邪引いちゃうし起こした方が良いのかな……?
そんなことを考えていたら、凛紗さんは自分から目を覚ましてしまった。
「あ、おはようございます。えへへ」
そう言って、まだ少し寝ぼけているところのある顔で微笑んだ。
「大丈夫ですか?」
「うん。ありがとう。あと、ごめん。そんなところで寝させちゃって」
「大丈夫ですよ。ほんの少しの間ですから」
「……やっぱり寝不足で不調になったの?」
「いえ! 昨日はちゃんと寝ました! 心配させてしまいますからね。結局心配させて、偏頭痛にさせてしまったみたいですが」
情けなく笑う凛紗さん。
「あ……えっと、うん。心配はした。それも偏頭痛の要因の一つかもしれない。でも一番は大きな気圧変化のせいだよ」
「え!? そうなんですか!? 確かに急に寒くなりましたけど。私の不調もそのせいですし」
「え? じゃあ僕たち、お互いの不調の原因が自分だと思ったけど、本当の原因は天候だったの?」
「そう……なりますね」
二人で苦笑した。
「ごめんなさい。持病があるからと特別扱いすることなく、普通に接してもらえるところは今でも好きです。でも、いざ発症したら心配しますし、心配させてしまいますよね」
「適切に対処できるって信頼はするよ。でも心配しても良いよね。もし対処できなければ代わりにしてあげるし」
「そうですね! 私もそうします!」
「今の時間は?」
「十一時過ぎです。お昼休みですね」
僕は上体を起こした。
「大丈夫ですか?」
「痛いは痛いけど、大丈夫。戻るよ」
「分かりました。先生に伝えておきますね」
「ありがとう、いろいろと」
「いえいえ」
それから思うように立ち上がれなかったのもあるけど、凛紗さんに伝えるべきことがあるような気もして……。
その結果として、しばらく見詰めてしまった。
「だ、駄目ですよ……。いつ戻ってくるか分からないんですから……」
凛紗さんの目は潤んでいた。
「ごめん。見られてまずいことまでするつもりは無かったよ」
「え!? あ! ごめんなさい!」
「……まあ、いつかね」
視線を逸らしながらじゃないと言えなかった。
「あ、はい!」
僕は保健室の扉を開けた。
「いってらっしゃい、君島さん」
前にも言われたような気がするけど、全く違う言葉に思えた。
「うん。いってきます」
◇
映像部の部活紹介動画は全て完成し、三学期は終了。春休みに入った。
どちらからともなく一回ぐらいは会おうという話が出て、凛紗さんが買い物をする日に会うことになった。
その当日。
「久し振り、凛紗さん」
「お久し振りです! 君島さん」
少し寄り道しつつ、お互いに会っていなかった間についてとりとめもなく話した。
その中で一つ質問してみた。
「凛紗さん。僕の行動は凛紗さんのためになっていますか」
「え? あ、はい! もちろんです! こうして一緒にいてもらえることとか、他にもいろいろ!」
「良かった。今のは幸恵さんに言われたことだったんだ。草壁と幸恵さんを僕から離そうと行動する前、草壁にノートを見せることに対して訊いた答えなんだけどね。今更草壁に訊く意味は無いけど、凛紗さんには改めて」
「そうでしたか。君島さんはどうですか?」
「うん。ためになっているよ。なんて言うか……夢みたいだよ。僕のことを考えて、僕の傍にいてくれる人が、僕の行動をためになっているって言ってくれることが」
「私も同じです! まだまだお返しし切れていませんから、これからもお願いしますね」
「あ……ごめん。凛紗さんが返し切るまで待とうかと思ってたんだけど、受け取り続けるのも性に合わないから、僕からも渡したいんだ。だから、凛紗さん」
「はい!」
向き合う僕と凛紗さん。
「僕が幸せにします!」
これにて「僕(じゃない人)が幸せにします。」は完結です。
読みづらい点もあったかとは思いますが、君島くんたちが辿った物語をお楽しみいただけましたら幸いです。
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読者の皆さんに感謝を申し上げて締めさせていただきます。
お読みいただき誠にありがとうございました。




