5-49バッドコンディション
今朝、凛紗さんからメッセージが送られてきた。
>今日は調子があまり良くないため保健室登校します
>私のことを待たずに登校してくださいね
浮かれていたけど、病気との付き合いはこれからも続いていく。僕にできることは多くを言わないことだ。
>分かったよ
>連絡してくれてありがとう
今日は風が吹き荒んでいた。
いつも通り過ごそうと思っていたけど、授業中に心当たりが思い浮かんだ。
もしかするとまた寝不足だったのかもしれない。
僕が勧めたものを見ていたせいで。
こんな考え方をすることこそ凛紗さんが望んでいないことだろうか。慣れているからと安心させて来そうにも思える。
そうだとしても、発症が辛いことには変わりない。
こんなことで僕は凛紗さんを――
あ……。
視界に違和感がある。うまく焦点が合わない。
偏頭痛の兆候だ。
休み時間になって薬を飲んだ。後は冷却シートが……無い。
無くてもなんとかなるかもしれないから、次の授業に望もう。
◇
次の授業中、草壁に声をかけられた。
「大丈夫? 顔色悪いよ?」
なんともならなかった。今はもうかなり痛い。
「……偏頭痛」
それに草壁は頷きだけを返した。お互い少しは慣れているから、これだけで言いたいことが分かった。
この授業は残り時間が少ないから僕は最後までここに座って、終わり次第保健室に行くこと。つまり僕を放っておいてもらいたいということ。
草壁は次の授業から先生に僕の欠席理由を伝えるということ。
前は何も言わずに対応しててくれた草壁には感謝した。お礼しようかと思ったけど、逆にノートを見せてくれているお礼と言われた。
思えばただノートをせびってくるだけじゃなかったから、あんなことをしようとしたのかもしれない。
授業の最後までなんとか耐え、保健室に行こうと席を立ったところでもう一度草壁から声をかけられた。
「ノート取っておくから」
僕は心の底から驚いた。頭痛も相まってすぐには何も言えなかった。
「驚いた? でもうちだって成長してますから」
「あまり血圧上げさせないでよ」
「何言ってんの。ほら、早く」
「ありがとう。お願いします」
◇
保健室の扉を開けると、先生と小さく声を上げた凛紗さんがいた。
凛紗さんから視線を向けられながら先生に話しかける。
「すみません。偏頭痛が出まして、ベッドと氷嚢を借りられますか」
この保健室にも冷却シートが無いそうだ。
「ベッドは使って大丈夫。氷嚢はちょっと待ってね」
「ありがとうございます」
ベッドに入った後で氷嚢とタオルを受け取って、痛む方に押しつけながら眠ることにした。
目を瞑る前に、凛紗さんの心配そうな表情が見えた。
その表情が、やけに頭に残った。




