1-27独特な人と大家族の長女
去年の文化祭で宣伝するためSNSに投稿する動画撮影した時、僕は油井を深く知った。
美術部の油井は作成過程を撮影する僕たちの日程や見映えなどを考慮しつつ、不足なく作品を制作した。この撮影はまず嫌がられると部活の先輩には言われていたけど、油井は進んで協力してくれたのはとても助かった。
この時は幸恵さんと手分けして撮影したから、幸恵さんと油井とでお互いをあまり知らないはず。
教室に入る前の油井に話しかけることができた。今回は新城の時と違って個人的なことは言う必要もないから、場所を移すことなく話を切り出した。
「今週の土曜日に今遊園地でやってる脱出ゲームに行けないかと思って」
「また唐突だね。いいよ」
幸恵さん同様の即答だ。
「唐突なのにいいのね」
「何時集合?」
「十時頃に現地に着きたいんだけど、いいかな」
「分かった。じゃあよろしく」
それだけ言って教室の中へと入る――ところを僕は肩を掴んで止めた。
「いやもうちょっと色々聴かなくていいの!?」
幸恵さんでも話は聴いてくれたよ!?
「何か必要なものでもあるのかな?」
「確かに。特に無……いや料金はいらないってことぐらいは覚えておいて? 飲食は別だけど」
危ない。“必要なもの”ではないからその通りだと思いかけてた。
「気を遣わなくても良い。そのくらい払う」
幾らかかっても行くつもりだったから訊かなかったってことね……。
「いや、家族で行けなくなって余ったものだから」
「そうか。ならありがたく」
こちらを向いて頭を下げ、去ろうとする――ところをまた僕は止める。
「誰と行くとかはいいの!?」
「君島と君島が誘う人だろう。なら問題無い」
僕のこと買いかぶりすぎじゃない?
「……櫓と幸恵さんだからよろしく」
「へぇ。それは私が行っていいのか?」
「大丈夫だよ!? 別に気を使うこと無いから!」
「なぜ焦る? まあ確かに遠慮することはないな」
良かった、見透かされていなかったみたいで。正直油井はこういったことを分かっていそうで怖い。
「ではよろしくお願いするよ」
確かに櫓は信念なり目標なりがある故に、自分なりの分別を着けつつ突き進んでいる人って言っていた。でもこれ突き進み過ぎじゃないですかね。
◇
「あー、こんな感じだったっけ」
「いや、なくなったものもあるんじゃないか」
「そっか、古いのがあったね。前撤去するって新聞で見たな」
当日、僕たちは久しぶりに見た遊園地に懐かしさを覚えていた。
油井は僕や櫓とは違う小学校や中学校に通っていたけど、街としては同じで、だから当然のようにこの遊園地の思い出があった。
「みんな来たことあるんだね」
でも、幸恵さんも同じようにこの街に住んでいても思い出は無いようだった。無理もないと思う。五人も子どもがいる家族なら、時間もお金も余裕が無いだろうし、こういう所に連れてきたらより混乱するだろうから避けるのも分かる。
「来たと言っても十年以上前のことだから。ほとんど初めてみたいな感じだよ」
「私は土砂降りになってすぐ帰った覚えが……。いい天気の日に来られて良かったよ」
油井も知ってか知らずか幸恵さんの事情には触れないでいてくれた。というかそれ、考えようによっては来たくても来られなかった幸恵さんより悲しくない?




