5-37あの場所まで
部活が始まってすぐ。
「失礼します」
コンピューター室に入った僕。誰もいないのかと思っていたらモニターの裏に凛紗さんがいた。
「凛紗さん」
「ふぁいっ!?」
挨拶をすれば飛び上がるほど驚くような返事をして、
「ご、ごめんなさい! 集中していて!」
すぐに謝ってくれた。凛紗さんらしい。
「こっちこそごめん。もう少し大きい声で入れば良かったね」
「いえいえ。来ることが分かっていながら驚く私がおかしいんです」
「来ることが分かっていれば驚かない……そっか。だから最近見ないんだ」
「それもありますけど……君島さんには安心が勝ると言うか……」
「そ、そうなんだ。僕はその反応が見られて安心したけど」
「今のに安心ですか? 初めて言われました。良く思ってもらえるなら嬉しいです!」
恥ずかしがったり不思議がったり朗らかに笑ったり。
前からこうで嫌いじゃなかったけど、意識している今は可愛くて堪らない。
「君島さん?」
落ち着け僕。
「凛紗さん」
「はい」
「今日、部活が終わったら、一緒にあの場所に来てもらえるかな?」
「あ……はい! えっと……まずは部活しましょう!」
「うん。今日は編集する予定だったっけ」
◇
部活が終わり、幸恵さんは「じゃあまたね~」とだけ言って、後輩たちと一緒に部屋を出た。
凛紗さんには玄関で待ってもらって、鍵を返してから一緒に校舎を出た。
「やっぱりちょっと寒いかな」
「そうですね。春はまだ遠いです」
「話をするのはリュヌにしようかとも思ったんだけどね」
「そうなんですか?」
「他にお客さんがいるし、何より卯月さんがいるから止めておいたんだ……」
「色めき立つところの想像がついてしまいますね……」
「その場ではそっとしておいてくれるんだけどね。ずっと何か言われ続けると思う」
「色恋沙汰ではそういった様子なのでしょうけど、とても頼りになりますよね。この間のチョコレートは、作り方を卯月さんが講師を勤められた料理教室で教わったものだったんです」
「そうだったんだ。おいしかったよ」
「あっ、良かったです!」
嬉しそうな凛紗さんにしばらく見惚れてしまった。
「あの、この間はすみません」
「え、え? 何が?」
「何も喋らず歩いていった挙げ句、息が上がっているような状態になってしまって……」
「持病に関係しているのかな?」
「そうですね……」
「じゃあ、先に病気の話をしておこうかな」
「……はい」
「実は僕も持病があるんだ。そこまで重くないけど、酷ければ何もできなくなるような。僕はそれで思うのは、放っておいてほしいってこと。一般的な対策をしてもしなくても発症するし、発症すれば対処して、後はただ収まるのを待つだけだから。それがあって他人の病気にも干渉する気にはなれないってだけなんだ」
「あ……そうだったんですね」
「でも、後で少しは教えてもらおうかな。緊急時には少しでも役に立てるように」
◆
え?
それってどういう……。
「着いたね」




