5-23料理教室と尻尾
自分で勉強しようかと調べてみましたが、難しそうな上、レシピが多かったです。どんな物が良いのでしょうか……。
部屋の扉を軽く叩く音が聞こえました。
「はい」
「ただいま」
「おかえりなさい」
「凛紗に見てほしいものがあって来たの」
そう言って一枚の紙を出しました。
「料理教室。卯月さんの?」
「そうなの。これに美頼から誘われてね。凛紗もどうかと思って」
内容は手作りチョコとのことです。
「是非!」
「本当? 良かったわ。少し心細かったから」
「そうでしたか。ところでこれに木庭さんは来ないんですか?」
「それなのよ。来るらしいの。そもそも卯月さんは講師というのもあって、だから心細かったの」
「なるほど。あれ? 美頼さんはそれでも良いのでしょうか……?」
◇
「いらっしゃい。あ、サラちゃんリサちゃん! 今日はよろしくね」
当日、開催場所とされた公民館に入ると卯月さんに出迎えてもらえました。
「「お願いします」」
中には十数人ほど。
「冴羅、凛紗」
そこに混ざっていた美頼さんに呼ばれました。
「待たせたわね」
「こんにちは」
その姿をよく見ると……
「店員さんの時のエプロン着けていますけど、受講するんですよね?」
「うん。まあ店長の手伝いはできるようにこの格好だけど」
「集まったみたいなので始めますね」
卯月さんが全体に向けて呼びかけます。
改めて頂いた紙を見ると、今日作るチョコのレシピが四つ載っていました。
「今回作るものは基本かつ比較的簡単なものですけど、全部をうまく作れなくても大丈夫。四種類作れれば見栄えが良いというだけの理由なので」
卯月さんらしさに和む私たち。
「人に送るならうまく作れるものだけ、時間が無いなら簡単に作れるものだけでも良いと思えるように教えます。私も頑張ります!」
私と冴羅ちゃん、美頼さんの三人で一つのテーブルを囲み、教えを受けながら調理していきました。
木庭さんも補佐のような立場でそれぞれのテーブルを回っていましたが、私たちの所に来たのは少し経ってからでした。
「何か手伝おうか?」
美頼さんは少し嬉しそうでした。尻尾を振る犬を思い起こしてしまいました。可愛いです。
「いや。美頼が二人に教えていたから、他の所に行くことができていた」
そう言いながらスプーンを手に取る木庭さん。
「じゃあなんで今来たの?」
今度は少し不貞腐れた口調でした。ああっ、尻尾が……。
木庭さんは答えないまま、美頼さんが型からはみ出させてしまったチョコをスプーンで取り除きました。
「こうなっていたからな。外す時苦労するから気をつけた方が良い」
「あ、ありがと……」
暖かな風が吹くかのようでした。尻尾の力でしょうか。




