4-44乾杯 ☆
「じゃあ二人は食べて。持ち帰れるのは持ち帰っても良いけど」
「「ありがとうございます」」
声を揃えて言った後、仕分けたお皿と飲み物を入れたコップを持って移動した。
誰もいなくなった客室に入ったところで、想いを伝えるために二人きりにしてもらったときのことを思い出して、どきっとした。
「思い出すな」
「優哉も? なんかすごい前のことのような気もするね」
「ああ。梅雨時だったから、たった半年程なのだがな」
うちは迷わず“あの席”に着いた。
優哉は仕方なさそうにため息を吐いたけど、少し嬉しそうな表情で向かいに座ってくれた。
「じゃあ、いただきます」
「いただきます」
やっぱり美味しい。うちらが調理した部分もあるけど、卯月さんがレシピから作った、卯月さんの料理だ。
「誘った理由、だったか」
「あ、うん。そういえばまだだった」
「最初俺は有名なここがどんな所なのか気になっていて、引っ越す前までに行きたいと思っていた。その折、美頼が勉強に関することで落ち込んでいるようだった」
「そうだったね。あの頃から下手だったから」
「頑張れ、気にするな、私も同じ、など言われていたが、それでも晴れていなかっただろう?」
「う、うん。確かにそうだった。わがままだな~」
「それで誘って行くのが励ましになるような気がしたから、誘ったわけだ。こう話してみると小学生らしい頭の悪そうな考えだな」
「ううん。心配してくれたの、感じ取ってたよ。まあその時はただなんかすっごい嬉しいって思っただけだったけどね」
「嫌だと思わなかったか?」
「急になんで? 無いよそんなの。普通に仲良かったじゃん。……そう。仲良かっただけだったんだけどさ。そういう風に声をかけてくれたときから、優哉のことを特別に感じ始めたんだ」
「……そうか」
「わがままだとは思うけど、そういうこと言われてどうすれば良いか分かんなかったし。うち勉強苦手なままなんですけどって。でも誘われた後は、その日までは頑張ろうって自然と思えたんだよね」
「良かった、声をかけて」
「だからもう、ここに来た直後は無理にでも頑張ったよね! あんまり変わんなくてその時も優哉に頼ってたけど。っていうのをこの間料理を一緒に調べてくれるかって言われた後に思い出せました」
「なるほど。それであの反応だったわけか」
「って聴きたいのそれだけじゃなかった! もう直接訊く! いつからうちのこと好きだったの!?」
「それは……これまでの男どもを見て分からないか?」
「ん……? い、いや、分かんない! 優哉から聴きたい!」
本当はちょっと分かったけど。
優哉はまたため息を吐く。
「……可愛くて元気で、それでいて他人に気遣いができるからだ」
「……えへへ。そっか」
うちはコップを優哉の前に出した。
「ちょっと気が早いけど、今日は今年の感謝を伝える日だから。優哉、ありがとう。来年も、それからもずっとよろしく」
「ずっと、か。分かった。俺は重いかもしれないが、支えてもらえるのなら嬉しい」
笑顔を交わして、優哉がコップを差し出して、
コップ同士の当たった音が、綺麗に鳴り響いた。
これにて「僕(じゃない人)が幸せにします。」第4章は短いですが、完結です。草壁ちゃんと幸恵ちゃんが幸せへの一歩を踏み出しました。
つまりこの作品が最初に提示した命題を達成したものとして完結でも良かったのですが、気になることがあるかと思います。明日から最終章である、第5章を引き続き投稿してまいりますのでよろしくお願いいたします。
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