4-31帰り道 ☆
トイレを探そうかとも思ったが、この早朝に開いていないと判断し、持っていたハンカチを買った水で濡らして拭くことにした。
ハンカチを濡らしながら俺は質問した。
「美頼。途中『ねえ』などと挑発的な物言いをしていたが、どこで覚えた」
「な、何それ!? そんな覚えないよ!?」
「そうか」
無意識とは恐れ入った。
「あ、それとも優哉の話し方が移ったのかもな~?」
絞る直前の重みもあってハンカチを落としかけた。
「そ、そうか」
「なんで?」
「もうその物言いはやめてくれ」
「じゃあ優哉も」
「……俺以外に」
「へ!? あ、え!? あ。うん……」
恥ずかしかったが、同じくらい恥ずかしがっている美頼を見られたので良しとしよう。
それからお互い確認しつつ顔を拭いた。顔も小さいな……。
「目の周りは赤いが、これで一応は分からないだろう」
「ありがとう。でも優哉はそれじゃ手を拭けないよね」
「まあ、ハンドドライヤーとかでどうにかしよう」
「う~ん。後で買ってあげる」
「いや、そこまでは」
何か似たようなことを言った気がする。
「うちが買いたいんだ」
やはりこうなったか。
「お返しっていうか、記念っていうか」
「分かった。なら俺からも買おう」
「それじゃお返しに……! うん。やっぱりお願い」
◇
四日目は空港に移動し、お土産などを買うための長めの滞在時間を経て、帰路に着くという日程になっていた。
想定を大幅に超えて充実した四日間だった。僕がいろいろ明かしたのも悪くなかったのかな。
僕は特に買う物も無いので撮影した動画を確認していた。
「君島~」
そそくさと、どうも木庭と買い物に行っていた草壁から声をかけられた。
「動画どんな感じ?」
「水族館はちょっと難しかったね。人多いし、暗いし。あ、昼食は使わせてもらおうかな」
「うん。使って使って」
「奏向くん」
動画を確認していたからか幸恵さんもやって来た。
「美頼ちゃん、お疲れさま」
「幸恵~! ありがとう!」
脈絡なく感謝する草壁の手を幸恵さんが握り、何度か頷いた。
「何かあった?」
「女同士の話なんで」「奏向くんでもちょっと言えないな~」
「そうですか」
と、僕はちょっと笑いながら返した。
「なんで笑ったん?」
「こっちの話なんで」
「思い出し笑い?」
「それは違うけどね」
「「え~?」」
何も無ければ関わりもなかったであろう二人が、こうして仲が良くなっていることに嬉しくなったとか、言えるはずもない。
「あ、それで水族館は私のを使えば良いよ」
「聴いてたの?」
未だに僕とも仲良くしていることは……まあ、二人が望んでいることならいいか。




