4-2授業中に悩む男子と覗く僕 ☆
木庭は悩んでいるらしい。
何も書き込まれていない紙――進路調査の用紙を数学の授業中に取り出していた。
十月末日が提出期限だからまだ余裕はあるけど、木庭はすぐには書き込めないだろうな。
……見てしまったのは僕の癖。木庭はいつも数学と違う教科の問題集も持ってきていて、今日は何を持ってきている見たかったからだ。
授業が終わったけど、これまで突っ込んだことはないし、今日も黙っておけば
ぱらっ
お、落としたー!? もう触れざるをえないよ!? い、いや、何食わぬ顔で……渡したら僕が何を思ったか伝わっちゃうよねえ!? でも周りに人いないし……ああもう!
「オトシタヨ」
「ああ、悪い。なんで片言なんだ?」
沈黙が流れた。
「これを見ればそうなるか……」
木庭は消え入るような声だった。
「ごめん」
「いや、もういい。言っておくか。俺は県内の調理専門学校に行こうかと考えている。そこを卒業した後は卯月さんに都内の知り合いの所での修行も勧められている。ただな……」
迷うのは、その先が過酷だからというだけではなくて、草壁のこともあるからだろう。
「この先、相談したいことがあったら今後も卯月さんを頼るといいよ」
「いやそこまで世話になるわけには……」
「大丈夫だよ。どうしても険しい道のりになることは分かってるし、現にこれまで働いた人の相談によく乗ってるし」
「そうか、本当になんでもできるな。あの人は」
「その上で平気なんだからね。でも高校生のころは臆病だったらしいよ」
「それが、今の夫に出会って変わったのか」
「そうみたいだね」
「……君島は、卯月店長がなぜ料理の修行を続けられたのか思い当たることはあるか? 再会を目的にすることだけが支えだったと思うか?」
「そんなわけないよ。そもそも単純に好きなんだよ、料理をすること。そうじゃなかったら難しかったんじゃないかな。再会できるか分からないし、挫折するかもしれないし」
「なるほど。確かにそうだな」
「まあ卯月さんのことだから、その時はその時でまた別のことをしたんだと思う。今言った通りなんでもできる……けど思い出した。一個できないこと」
「なんだ?」
「中華鍋を振れないんだって」
「見た目によらず力がある人だが、さすがに難しいか。……いやその前に提供する料理は基本洋食だからいらないと思うが?」
「一生に一度は!とも言っていたよ」
◇
多分、木庭と同じように、草壁も似たようなことで迷っていると思う。どの道をどう歩むべきか。
幸恵さんも同じだ。選ぶものが決まっただけで、どれかを選んだわけじゃない。
納得できるまで考えて欲しかったけど、そうも言っていられなくなってきた。




