1-18後輩からの追求に対する間違った切り抜け方
コンピューター室に戻ると、後輩たちが既に部屋にいた。
「ごめん。お待たせ~」と言いながら、幸恵さんは今日の部活に取りかかる。
僕もパソコンを起動して後輩の様子を見よう……としたところでその後輩――飯塚さんから屈むよう手招きされた。
「二人で何されてたんですか?」
にやにやしながら訊いてくる。
「いや、まあちょっとした話を」
「大事な話ですよね?」
「僕にとってはね」
「西沖先輩にも大事な話なんじゃないですか? そうじゃなきゃあんな近づいたり」
後半はもういひひみたいな笑い方しながら話していた。
見られていたか……。どうやら僕が伝えること伝えたと思われているらしい。結局一番最初に憂慮していたことが程度は小さいが起こってしまった。
そんな話はしていないと言っても今の様子からして無駄だろうし、僕が振られたと言っても幸恵さんといることに違和感を与えそうだし……。
閃いた。一つだけ良い切り抜け方が。
「飯塚さん。今考えてるような話はしてないよ」
「またまた。隠さなくても」
「ここだけの話なんだけど、幸恵さんにはいるからね」
「……え? いるって」
「うん。僕じゃない」
「あ……ごめんなさい!」
これでなんとか引き下がってくれた。
問題は飯塚さん、あるいは後輩三人が嘘と気付く前に本当にできるかだけど……。
◇
「君島。どういうつもりだい?」
「え?」
「西沖に相手がいることになっている」
その情報伝達速度に光速を見た。
櫓とは言え丸一日で耳に入るとは……。
今日は喫茶リュヌで注文を終えた後、櫓から切り出された。話し出す前からかなりピリついていたから何かやらかしたかな~とは思っていたけど。
「申し訳ございません! 後輩の追求を逃れようと必死だったんです!」
「今のところ一部の噂程度でしかないから立ち消えになる可能性もある。ただ男子間でも広まったら君が責任を追うことだ。何、全てを受け入れ君が付き合うか振るかして私には手数料を払えばいいだけさ」
「手数料発生するの!? 受け入れる方は一応覚悟はしてるけど。……やっぱりすみません、厳しいです。最後まで見捨てないでくださいお願いします」
ただただ平身低頭して言うしかなかった。
「当然だ。この私が知恵を巡らせて作った策を無駄にされてたまるか」
「ありがとうございます櫓様! 櫓様の策があれば解決したも同然です」
「気持ち悪いな」
僕は軽く睨みつけられながら言われた。
「すみません。分かってやりました」