3-55遠回り ☆
「やはり覚えていないのか」
「何を?」
「いや、それもそうか。今のは中学の時、君が新たに生徒会に任命された際の君の言葉だ。すまない、気持ち悪いよな。それに今の話からするに、本当の目的は西沖の対抗することであって言葉は適当だったのだろうな」
何か返してあげたかったけれど、何も思い付かなかった。
「だが、私は感銘を受けた。その後に生徒のことを考えるような話をしていたが、やはり本心は自分のために行動しようとしていると思った」
「……随分と勝手ね。昔の私も」
私の意見に彼は首を横に振った。
「だが実際、自分勝手な面なんて一つも無かった。そこにまた驚かされた。そんな時だ。君に私が生徒会長に向いていると言われたのは。嬉しかった。そんな君と生徒会の活動をすれば変われるような気がしたんだ」
私は何も言えなくなった。それは宮国が矢継ぎ早に話していたからではなかった。
「ああ……すまない。いよいよ本当に気持ち悪いな。ただ、西沖ではなく、君のおかげで少しだけかもしれないが、変われた人がいるということを知っていてくれ」
「そ、そう……あ、雨、小降りになってきたみたいね。呼び掛けてくるわ。ありがとう。とても参考になったわ」
「あ、ああ。それなら良かった……。私も呼び掛ける」
宮国の言葉の途中で私は生徒会室を出た。
生徒会室から死角になる壁に背中を預けた。
顔熱い! 赤くなっていることに気付かれたかしら!?
思い出した。確かにそう言った。本心だった。
そうだ。あの時の私はできる限りを尽くそうとしていた。
でもそれは利他心でも向上心でもなくて、ただの私欲からそうしていた。
幸恵を越えられるかどうかより先にあった私欲。
誰かに努力を見ていてほしいという私欲だ。
幸恵に憧れたのも、人に囲まれた存在だったからだ。正直宮国のことも羨ましく思っていた。
もし私に利他心や向上心があるように見えたのなら、それは幸恵を真似ていたからだ。それが無ければ見向きもされないし、あるからこそ人を惹き付けるのだと今では思う。
けれど真似しようとし過ぎて、目的が完全に挿げ変わって、挙げ句周りを困らせるなんてね。
もう心底恥ずかしい! 中学生の頃の方がまだましなことも、けれど公の場で言ってしまっていることも、結果よりにもよって宮国に本心を見抜かれていることも、いつの間にかそれを忘れていることも、その結果本末転倒になっていることも、勝手に幸恵に負けていることも、今思っていること思い出せたこと気付けたこと全部宮国のおかげということも!
何より!
宮国こそが私を見ていてくれたことに気付かなかったことが!
私は深呼吸した。そして自分に出して言い聞かせた。
「いつまでもこうしていられないわね」




