3-47二人は自問する ☆
腹が立つ。
別府に対してもそうなんだけど、なんていうか……。
「美頼?」
「あ、優哉。行こっか」
「どうした? 元気ないのか?」
「……あ~。早いな~。こんなすぐばれちゃうんだ」
まあ、最初に声かけた時から心配そうな顔してたんだけどね。
「いや、悪い。別に話したくないならいい」
「そうじゃなくて、せっかくなのに気分悪い話聴かせたくないし」
「……俺はお前が気分悪そうにしている方が嫌だけどな」
優哉がぼそっと言った。
「ぷっ。あははっ!」
「なんだよ!? そんなに可笑しいか!?」
「ううん。ごめんごめん。ありがとう。やっぱ話す! 副会長が別府と付き合ってあげてたのに、別府が急に副会長に興味無くなったって言い出したってだけ!」
「……それは気分が悪くなっても仕方が無いな。少し話には聞いていたが、どこまでも勝手な奴だ」
勝手……。そっか、腹が立つのは別府がうちみたいだからだ。勝手に好きって言ったり勝手に一人に決めなかったり。本当、どこまでも勝手だ。
「……優哉が、もし副会長の立場だったら、どう思う?」
「そうだな……。深町冴羅は別府のことをどう思っていたんだろうな。嫌いならそれ以上何も思わないか清々するか。好きなら……かなり傷つくだろうな」
……そう、だよね。
「少なくとも、お前みたいのがいれば少しは救われるだろ」
そんなことをそんな優しい顔で言わないでよ。
何やってんだろ、うち。
◇
他人にも美頼相手にも言えないが、楽しんだ。……五組のはしっかり怖かった。だが、美頼と近かったところはなんとも……。
やはり言えないな。まあ、君島には感謝だけ伝えておこう。
美頼が他人のことを思いやれるように戻って安心した。
俺は無愛想で接客も人間関係もあいつのようにはいかない。一番良くないのは誰よりもきつくあたっていることだ。
このまま洋菓子を作るとしても、美頼と一緒にいるようなことはあり得ないだろう。
今日は良い思い出だ。
美頼と別れた俺はバスケ部の屋台に向かうところで、
「木庭くん!」
と声をかけられた。その人物は宮国だ。
「何か?」
「あ……その……女性の誘い方を教えてほしくて……」
…………。
俺は目を閉じた。
「さっきまでの俺を見ていたからか」
目を開けながら訊く。
「はい、ごめんなさい……。いや、一瞬でして」
「生徒会長がそんなんでどうする」
「た、確かに。でも心臓に毛が生えているわけでもなくて……」
「それは俺もだ。というわけで俺に訊くな」
「そんな殺生な! というかそうなんだ。ごめん、勝手に得意なのかと思ってた」
「……相手は深町姉妹のいずれかか?」
もしそうならそちら同士の付き合いの方が長い。俺がとやかく言うことではないだろう。
「……理想は。でも、今ではそうもいかない。木庭くんに訊いたのは、理想に近かったからっていうのもあるんだ」
「そうか」
前の関係から変わっていたとは知らなかった。
それなら、何か返すか。なけなしだが。
「一つ言えるとすれば」
「うん」
「あまり気負いすぎるな」
「分かった」
生徒会長の風格が戻った歩みを俺は見送る。
今では、か。
どこかでは考えていた。また手が届くようになった今、あと少し手を伸ばすべきではないかと。昨日手を伸ばして、今日が良い思い出になったと思えたように。
何をしているんだ、俺は。




