3-45誰がために ☆
文化祭は二日目になった。
私は昨日の宮国の対戦の一部始終を聴いた。でもそれ以上どうこう言われなかった。できた友人を持ったと、直接は言わないけれど感謝した。
私のことでそこまで動じるとは思っていなかった。私と凛紗の今の関係を彼が前向きに捉えているとしても複雑だった。
宮国が私たちのことを今どう思っているのか、私は聞くのが怖かった。今でも怖い。だから、断片的でも、もしはったりだったとしても、知ることができて嬉しかった。
……あまりに勝手過ぎる私自身に思わずため息が出た。
一方的に距離を置くことを提案して、その後どう思っているかを案じて、本人の発言だからとその思いを知れたことにして喜ぶ? 勝手過ぎて気持ちが悪い。
それに距離を置くことすらできていない。
二学期が始まってすぐのあの時も。凛紗のことを思った私の行動は、逆効果だったどころか宮国の手も煩わせてしまった。
そして、今も。
だから私は――
「冴羅」
私としたことが。今はクイズラリーの受け付けをしているところだった。
「はい。クイズラリー……」
話し始めようと見上げて顔を見ると、別府くんだった。
「も良いが、今は話をしたい」
受け付けは会計の後輩に任せて場所を変えた。
「先程のポーカーの様子を見た」
「そう。最初から全て?」
別府くんは頷く。
「何をしていたのかしらね。今は軽率だったと反省しているわ」
「拒絶すれば何をしたか分からない。最善でなかったにしろ最悪は免れる行動だった」
「ありがとう」
「分からないのは、君は一切怯える素振りを見せず、毅然と対応していたことだ」
「……どういう意味かしら?」
「君の妹のように怖がるような態度を表に出さなかった、と言えばいいのか」
「確かに怖いと思ったけれど、一番はどうにかすることだったし、そもそも凛紗ほど驚くことはないわね」
「……そうか。なら少し、君とのことを考えさせてほしい」
彼は表情を変えることなく言った。
「どうして?」
「俺は君の毅然さと気弱さを併せ持っているところに惹かれた。だが、それは俺の思い込みだったらしい。それに、前から君は君自身を含めた誰に対しても気持ちを向けていないことが気になっていた」
「そう。分かったわ」
「君たち双子はよく似ているな」
「ええ」
私が返事をすると、別府くんは背を見せて歩き去った。
我ながら淡泊な受け答えだと思う。
でも彼が望むならそれで良いと思う。
悲しみも怒りも無かった。
それより私がしてあげられたことを考えた。
……別府くんについてこれと言ったことを思い出せない。どういうわけか宮国や君島のことを思い出してしまう。
印象が薄いのは、一緒に過ごしていても気持ちを向けずにいたからなのだろうか。
――ああ。
気を付けていたつもりだった。なのに、私はまた同じ過ちを繰り返したようだ。




