1-16意外な好み ☆
「あ、というよりはどういうところをいいと思うのかな~と」
「う~ん……。大きい目標とかがある人とか、前向きな人、とかかな?」
「なるほど。……気を悪くさせたら悪いんだけど、仕事で出世とかしそうな感じかな」
「やっぱりそう思う?」
あ、言わなくていいこと言っちゃったな……。
「いいよね、大事だよね、お金」
もっと身も蓋もないこと言われちゃったよ。
「……それは、もちろん」
お金が大事なのは概ね同感だが、幸恵さんにしては意外だった。
「何に使うの?」
こうも意外だと結構俗物的なことかもしれない。
「色々だよ。まずは暮らしていくために使わなきゃでしょ。色々なものと交換できるのが良いところなんだから」
ここはやっぱり幸恵さんらしい目的だった。
しかし、幸恵さんは何故か途端に神妙な面持ちになった。
「でもお金はおっかねぇって言うもんね……」
…………え?
一瞬思考が停止した。
その後すぐに様々な考えが浮かんだ。そんな格言みたいに言わないでくださいよ、と言おうと思ったがこの手の駄洒落の中でも格言めいたものの一つだとも思う。例えば宝くじを当てたあと不幸になった話はしばしば聞かれる。相続でも揉めるのは大体小金持ちだ。ギャンブル依存症になる理由の一つに金銭が絡むからという点もあるのではないか。魔力の例文を調べれば必ずお金に関するものがある。お金が必ずしも穏やかなものじゃないと思うと、容易に否定できない。
ふと我に返ると。
すぐ目の前に幸恵さんの顔があった。
「大丈夫?」
めちゃくちゃ近い……!
僕は驚きすぎて咄嗟に何かをすることも声を出すこともできず、
「……お金のことを考え込みすぎていました。近づかれていたことに気付かないくらいに」
ただ素直に答えてしまっていた。
「何か分かった?」
幸恵さんは離れようとはせず無邪気に訊く。
「いや……幸恵さんの言った駄洒落はその通りだなーってぐらいしか」
それだけなのに、目の前で笑顔がぱあっと咲いた。
「奏向くんもそう思う!? うん、やっぱり気を付けなきゃだよね。何事も丁度良くないと、何かを壊しちゃうもんね」
ほくほくと満足そうに納得していたが、最後の言葉には何か裏付けがありそうな気がした。
距離を取りながら幸恵さんは続ける。
「だから、お金のことだけじゃなくて、なんなら私に任せて、進む先のことを考えられる人がいいんだ」