3-22中学三年の終わり頃 ☆
冴羅さんとお互いの活動が終わった後、会わせてもらうことができた。
「今日はありがとう。少々見苦しかったかしら」
「正直に言わせてもらうと助かるよ」
「そう。役に立ったのなら良かったわ」
なんと言うか……しばらく会っていなかった人みたいだ。こうじゃなかったと言われればそんな気もするし、こうだったと言われればそんな気もする。いきなり深く関わったから感じることなのかもしれない。
「それで、どうしたの?」
「最近、幸恵さんが疲れているみたいで。何か少しでもできることがないかと思って」
「幸恵には直接訊いたのね」
「うん」
「けれどいつもとあまり変わらなかったのね」
「うん……」
冴羅さんは軽く頷いてくれた。
「詳しく聴かせてもらえるかしら?」
僕は草壁から聴いた昨日の幸恵さんの様子を伝えた。
「確かに心配になるわね。原因は劇、かしら」
「恐らくは」
「それなら、今はどうにもならないと思うわ。いつもの如く入り込んでしまっているのでしょう? 何をしても結局今と同じになってしまうと思うわ。……もしできることがあるとすれば、文化祭が終わった後も彼女の側にいてあげることね。その時こそ支えが必要だと思うから」
冴羅さんはなぜか苦い表情で言った。
「何か……あったんですか」
僕の質問に、冴羅さんは一呼吸吐いて僕を正面から見据えた。
「長くなると思うけれど、いいかしら」
睨まれているわけではない。むしろ優しさを感じた。けど、その眼差しに圧倒された。
「はい」
「中学三年の終わり頃のことよ」
高校受験を控え、遂に追い込まれたという季節。幸恵さんはいつものように多くの人の勉強を手伝っていたそうだ。
「自らの試験があるにも関わらずね。当時は心配したものよ」
結果としては教えた人のほとんどが受かったらしい。
「受かったことはとても喜んで、落ちたことはとても悲しんで。自分のことのようにね。幸恵自身が受かった時はまるで他人事だったけれど」
でも、と続けた。
「幸恵にとって大きかったのはそれからのことだったの。今まで教えてきた人たちとは関わりが減ったそうよ。当然と言えば当然よね。別れる時は感傷的になるけれど、それからさっぱりなんて。けれど幸恵の場合はそれがただの感傷ではなかったのよ」
「どういうこと?」
「幸恵にとって深く関わった人は半身みたいなものだったの。いえ、もしくはその他人が自分そのものとでも言えば良いのかしらね。それを失ったから酷く憔悴して、それまでのことが嘘みたいに他人と関わらなくなったの」
「そうだったんだ……」
「それに対して私だけでは何もできなくて、凛紗や宮国、それから同じ部活のあなたが支えになったから、今の幸恵があると思っているわ」
「じゃあ、初めの頃はあまり話すことがなかったのは」
「臆病になっていたから、でしょうね」




