1-10フラれた人について語る
数学の授業が終わり、僕は自分の席に戻る。
先に戻っていた草壁が目に入った。
見るとどうしても頭の中を靄が占める。
悟られないように適当なことを口にした。
「ノート写し終わりました?」
「これで全部!」
自慢げに答える草壁。
自慢することじゃないと思いますけどね。
実は今こそが話す絶好の機会だったりする。
草壁はノートを書いているときは集中しているし、僕としても早く返してほしいので話しかけない。これがなかなか話さない原因の一つだ。話す時は分からないことを訊いてくるかノートの要求か返却かのどれかだ。
その上で、さっきまでの授業科目だった数学のノートは求めてこない。この教科だけは僕のノートを見ても理解できなかったらしい。ちゃんと授業を受けていることを祈るまでだ……。
とはいえどう切り出せば良いのか。何か適した話題は……。
さっきまで僕の前の席に座っていた、次がないかもしれない人が頭に浮かんだ。
そうだ、新城のことを引き合いに出せば!
振られてくれてありがとう!
ノートを受け取りつつできるだけ自然に話を続けた。
「女子ってどんな人ならいいの?」
「急に何?」
「いや、顔も性格もいい人が振られたっていう話をしてたからさ。何が不満なんだろうなって思ってさ」
「それ、振った奴遊びだったんでしょ」
即答だった。しかもどこか怒っているかのような口調で。まるで草壁自身が振られたみたいだ。
何故言い切ったんだろう。他にも考えられる原因があって、それこそ性格の不一致が一番よくあることのように思うけど。
「遊び?」
「そうだよ。相手がそんなに完璧な人だったら普通手放したくないでしょ。なのに別れたのはもう飽きたからだよ。ただ自分の価値を上げるためだけに使われたんだよ」
確かに理に適っている。ここで新城と付き合った五、六人が全員そうというわけではないと思いたくなるのは、男の良くないところなのだろうか。
「じゃあやっぱり見た目と中身どっちも良ければ言うこと無しってことか。厳しいな」
そんな人を見つけるのが。
「なんでそんなこと言っちゃうの?」
意外な発言に目を向けると草壁は真剣な面持ちだった。
「え?」
「なんで君島自身で負けを認めちゃってるの? なんでもいいから勝とうとしてよ!」
「ええ!? 応援はありがたいけど勝てないことは僕が一番分かってるからね?」
「諦めないで頑張ってよ!」
「頑張れば勝てるのかな……」
「そうだよ。君島が君島として努力すればいいんだよ!」
「そっか。勝てるか」
「うんうんいけるいける! なんか賞とか……モンドセレクションとか取れる!」