第9話
庄司くんの力になりたい。
そんな思いを新たにして、迎えた連休前最後の金曜日。
お昼に集まった私と、相馬くん、美織の3人の前には、色とりどりのスポンジケーキが並んでいた。
時は、昨晩おそくまで遡る。
『ヴヴヴヴ・・・・!!』
庄司くんのレビューの余韻に浸っていた私は、突然鳴り響いた携帯の振動に、肩を跳ねさせた。相馬くん、美織を含めたグループメッセージのようだった。
『まとい:明日のお昼は、僕が用意するので持ってこなくて大丈夫です。味見をお願いしたい』
実は、彼が家族へ振る舞う料理の練習として、私たちに味見をお願いするのは初めてではない。去年の冬には、新年のためのお雑煮の練習として2L水筒いっぱいに持ってきてくれたこともあった。
ただ、彼は家族のことになると、とても凝り性だから・・・。
『相馬孝:・・・今度はなんだ・・・』
『みおりん:前々回は水筒お雑煮だった』
『水瀬:あと、おせち料理もその次の週かにあったよね』
『みおりん:まといっちのご飯は美味しいからいいんだけどさあ、さすがに単品一本勝負はきつい』
『みおりん:ばりえーしょん、ご存じ?』
『まとい:variation』
『相馬孝:誰が英語にしろって言ったよ』
『まとい:音声入力。僕の発音は完璧なようだ』
『相馬孝:知るかよ』
『水瀬:・・・それで、明日のメニューは・・・?』
『まとい:ひ・み・つ♪』
『みおりん:こいつうざいな』
『まとい:まあ色々種類はあるから安心してくれ』
・・・そう言って、安心して就寝したのだが。目の前には、色とりどりのアメリカンなカップケーキ、普通のショートケーキ、ガトーショコラ、パウンドケーキ、etc・・・。
「全部ケーキじゃねーか!甘いもんばっか食えるか!」
「ふふふ、孝、ちゃんと甘くないのも用意しているぞ」
「なにこれ」
「ツナクレープとトマトバジルクレープ」
「女子かな?」
案の定、相馬くんが不平を言っていたが、出るわ出るわ、スイーツの数々。美織はもう覚悟を決めたようで、「あまい、うまい、ふとる・・・」と呟きながらも、ちょっとずつ味見をしてあげているようだ。
「・・・あ、これスポンジすっごく軽いね」
「うむ、無数のカップケーキで焼き上がった後の冷やし方を昨晩研究してな、このショートケーキは成功した感覚を掴んだ後に取り掛かったやつだ」
「うーん、いつも通り量が意味わかんないけど、いつも通り美味しいよ!まといっち!」
「ほんとか、美織!」
美織の太鼓判に、思わずと言った風で彼女の両手を握って喜ぶ庄司くん。珍しく、美織が顔を赤くしてドギマギしている。
「でもよ、量多すぎるだろ・・・妹たちに食わせろよ」
「馬鹿か、玲にケーキ作りを教えると約束したのに、失敗作を食べさせられるか」
「・・・庄司くん、本当に意地っ張りだよね・・・」
「当然だ、かっこいい兄貴でありたいからな」
なんというか、いつも思うことだけど、彼の弟妹に向ける愛情は凄まじいものがある。レビューでは、あんなに優しい愛情の示し方をしているくせに、日常生活では方向性が完全に振り切れている。
でも、彼が本気だって言うこともわかっているから。
私も、思ったことは正直に伝えよう。
「・・・カップケーキ、シロップ入れすぎだよね」
庄司くんの笑顔が、凍った。
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