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第6話

庄司くんが書いたという、レビューのサイトを読み始めた私は、その内容もさることながら、読者の反応が書かれたコメント欄に釘付けになった。


『姪っ子へ本を贈る参考になりました!』


と、実際に購入した本の写真とともにコメントしている男性や、


『学校で紹介する本の参考にしています』


といった学校の先生と思しきコメント。


でも、どれよりも目を引いたのは、出版社によってピン留めされた、注目コメント。




『シングルマザーです。紹介してくださった本を、10歳の娘と一緒に読んでいます。これまで、あまり本など買い与えてあげられなかったのですが、今では、このレビューと、私たちそれぞれの感想をくらべて、本の内容を娘と話し合うことが毎月の楽しみです。娘と共通の話題ができて、嬉しいです』




働くお母さんと思われる方からの、こんなコメント。


庄司くんが弟や妹に届けようと思った、優しい文章は、似たような境遇で頑張っている人の支えになっている。


家族のつながりを作る、キッカケになっている。


「・・・すごいなあ」


私だって、文芸部で文章を書くことがあるから、わかる。自分の書いた文章を、誰かに見せるっていうのは、とても勇気がいる行為だ。誰だって、批評されるのは怖い。実際、この出版社のサイトにも、酷評するようなコメントも数は少ないが存在する。


それを、家族のために行って、家族を支えるお金に変えて。さらには誰かの家庭に絆を取り戻す手助けまでしている。


「・・・まあ、その事情を話した時、京子さんが泣き出しちゃって大変だったんだけど」


と、彼は苦笑まじりに教えてくれたけど。



あたりまえだよ。



今日、話を聞いて驚いた。本当に、親代わりとして双子の面倒を見ている庄司くん。きっと、その大変さは、私には想像もつかなくって。大人の女性である榎本さんは、私よりもっとよくわかっているだろう。


大の大人でも投げ出したくなる責任を日々果たしながら、綴られた文章は、隅から隅まで、物語の美しい世界を噛み砕いて、平易な言葉で伝えようとしてくれている。


時には、有名な人の言葉や、子供たちの間で流行っている戦隊モノのシーンと絡めたりして、少しでも興味を持ってもらえるように。


かと思えば、親御さん世代が知っている古い物語との関わり、蘊蓄なんかも盛り込まれていて、どちらの世代にも訴える内容になっている。


そして何より。彼の文章は、けっして、物語を批判しない。その世界を肯定し、その美しい部分を、彼独自の筆致で、みずみずしく描き直している。その世界に感動した、庄司くん自身の姿が、透けて見えるかのようだ。


ふつう、文章を書くというのは、繰り返しの修正とセットになる。プロの編集者と一対一で、何往復も。情熱がなくてはできない作業だ。


そうやって、幾度となく描き直された、弟妹への愛へ溢れた文章が、読者から評価されて、こんな反響を得て。


そんなの、涙しない担当者なんて、嘘だと思う。


女性、だと聞いて、ワケもなく引っ掛かりを覚えたのは確かだったけど、それ以上に、庄司くんがいいひとに囲まれていると知れたことの方が、よっぽど嬉しかった。




そんな彼が、今月の本に選んだのは、「はてしない物語」。同作者の、「モモ」だけは読んだことがあるけど、こっちはまだ読んだことがない。


「おー、庄司くん、経費だからって容赦なく高いのいくね」


そんな憎まれ口を叩きながら、私も、同じ本を、一冊手にとる。


「水瀬さんも買うの?」


「うん、私も中学生の妹がいるし、私も読んでみようかな」


そして、今月末の彼のレビューを読むのだ。同じ物語を通して、この彼のことを、私は、もっと、知りたいと思うのだ。


「ふふふ、お揃いだね、水瀬さん」


「っ・・・!なんでいちいち意識させるようなこと言うの!?」


「(反応が)かわいいからなんだよなあ」


・・・ホントに!この男は黙ってればいいのに・・・なんですぐ雰囲気をまぜっ返そうとするのか。情緒が三枚目で固定されているんじゃないだろうか・・・

お読みいただきありがとうございます。励みになりますので、ブックマークやコメント・ご指摘など、よろしくお願いします。感想などもいただけましたらぜひ参考にさせていただきます。

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