第20話
「師匠、何卒!何卒ご教授お願いします!!!」
・・・僕が在籍するクラスは、一人の男の乱入により、一種異様な空気に包まれていた。
「くっくっく・・・せっかくきてくれたのだ、ご教授してやり給えよ」
「・・・孝、笑いながら言うなよ・・・というか、土屋、どうしたのさ」
「し、師匠!!!」
「そこらへんにしてやれって、纏の顔がめんどくささ隠さなくなってっから」
「し、師匠!そんなこと言わずに・・・!」
なおも食い下がる土屋の天丼っぷりに、教室から笑いが起こる。
そう、何を隠そう、この土屋何某と言う男は、僕が雑誌社のホームページで小さいコーナーとはいえ連載していることを知るや否や、僕のことを師匠と呼び始めたのだ。
正直、僕が連載をしているのは、舜や玲のためという側面が強いし、かなりコネというか人情で決めてもらっている部分が大きいので、誇るようなことでもないのだが・・・。
何より、この土屋何某は、率先してみんなの前で僕のレビューの朗読を始めやがった生き物なので、すでに僕の中での評価は最低ランクである。そして僕に不用意な注目を集めている今現在進行形で、彼の評価は最低値を更新中である。
「めんどくさいなあ・・・」
「纏、お前、隠す気ないな」
「社交辞令とか空気を読むとかが通じる相手だったらとっくに話はついてるんだよなあ・・・」
「まあ、それもそうか」
ちなみに、瑞穂氏は最高ランクである。あのボディータッチの多さがいいよね。あとめっちゃいい匂いする。まあ、水瀬さんの機嫌がナイアガラになるので口には、いや表情にすら出せないけど。
「師匠!今日文芸部来ますか!」
「・・・まあ、ちょっと顔は出すけど」
「解りました!楽しみにしてます!」
土屋何某の扱い安いところは、まともに返事をしてやればすぐに引くところである、というのは最近の付き合いでわかってきた。
今回も御多分に洩れず、僕の放課後に食い込めそうだということがわかった瞬間、すぐに教室から去っていった。
とはいえ、奴が騒いだおかげで僕らの昼休みは、平穏とは程遠い喧騒に巻き込まれてしまったわけだが。
「・・・まといっち、へんなのに懐かれてんね」
「水瀬さん、君のところの部員がへんなのって言われてるよ」
「・・・まあ今は庄司くんもその一味だけどね」
「くっ・・・そうだった・・・語るに落ちたか・・・」
「また夫婦漫才やってんな。てかよ、纏さ、放課後の予定くらい、メッセージでやり取りすれば良くね」
「それはそうよね。・・・庄司くん、もしかして・・・」
「うむ、土屋にはメッセージIDは教えてないな」
僕の素直な返事に、3人に動揺が走る。水瀬さんは、予想はしてたけど、と失礼な枕詞をつけて問いかけてきた。
「え、やっぱり土屋くん、しつこいから嫌い、とか・・・?」
「いや、そんなことはないけど。もちろん好きではないけど。そもそも、僕はあんまり人にメッセージ教えてないし。うちの学年だと、水瀬さんに孝、美織と、あと数人じゃない?」
舜と玲からの連絡を見過ごすといけないので、よほど仲良くないとメッセージは登録しない派なのだ。一方で、佐田さんや堤さんなど、お母さん方の連絡先は入れておかないと実際問題、非常に困るので、僕のアドレス帳はどちらかというと近所の連絡網のような様相を呈している。
やっぱ好きじゃないんだ、と微妙な表情で表情でもにょもにょしている水瀬さんや孝を尻目に、僕の携帯を奪い取っていじっていた美織も、同じ感想に達したようだ。
「いやあ・・・まといっちの連絡先、みごとに年上のお姉さんばっかりですなあ」
「お母さん方だね。言い方よ」
「しっかし、纏も本当に弟たち優先だな」
「まあ、それがやっぱり一番にきちゃうかなあ」
僕の今現在の生活において、舜や玲をおいて重要になるものっていうのは、おそらく存在しない。水瀬さんもそれはなんとなく理解してくれているようで、優しげに微笑んでくれる。
しかし。
ふと、僕の携帯をスクロールしていた美織の手が止まる。
「ねえ、まといっち」
「うん?」
「この、向井瑞穂、っていう人も、お母さん?」
ちゃ、ちゃうねん・・・。
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