第16話
お菓子作りのために集まった女の子たちは、まさに混沌と言った様相を呈していた。
彼女たちに危険がないように、色々と庄司くんは考えていたようで、午前中はパンケーキとクレープを作って、お昼に食べよう、と計画していたのだけど。
ミックス粉と水や牛乳を混ぜるだけの工程で、もう粉塵は舞い散るわ、こぼれた液体を拭こうとして他の子にぶつかってボウルをひっくり返すわ、作業場としていたリビングはさながら戦場のような慌ただしさだった。
「・・・ここに、既に混ぜておいた生地があります」
「あ、庄司くんついに3分クッキング方式だね」
「いや、これ無理でしょ。ほら、玲、他の二人と一緒に一旦、手と顔を洗ってきて。そしたら一緒に焼き始めようね」
最初の工程で大きな挫折を味わった子たちは、すごすごと洗面所へと下がっていく。
「舜、ゲームしてないで手伝って。冷蔵庫の中にカットフルーツがあるから出して」
「いいけど、高いところとどかなーい」
「・・・ごめん、水瀬さんお願いしていい?上の段に、フルーツ切ったやつと、サイドポケットにシロップとかチョコソースとかあるから、それもお願い」
庄司くんの指示で冷蔵庫を開けさせてもらうと、そこにはバラエティに富んだトッピングやソースが用意されており、ゲームをセーブしてお手伝いに参加した舜くんと一緒に取り出していく。
「あ、ひとみねーちゃん、このいちごのジャムも取って」
「はいはい、えーと、これかな?あ、ちょっとソースっぽく伸ばされてる」
「にーちゃん、今朝早く起きて色々やってたから、多分じゅんびしてたんだと思う」
玲のやつ不器用だから、必要になるかもっていってたと、そう、庄司くんからは聞こえないところで、こっそりと教えてくれる。
「庄司くん、いいお兄ちゃんだねえ」
「・・・うん、すごくいろんなこと頑張ってくれるし。オレたちのことずっと見てくれてる。本当は、お菓子作りとか、料理とかニガテだと思うんだけど」
そんな彼の呟きは、普段見ている庄司くんの様子からすると、ちょっと意外で。思わず聞き返してしまった。
「・・・母さんが死んじゃってから、オレたちが好きなものを作れるようにって、がっこうの後も毎日れんしゅうしてくれたんだ」
「そう、なんだ」
「まあ母さんのご飯とはちょっとちがうんだけど、おれはにーちゃんの作ってくれるのも好きだよ!」
「そっか。舜くんは、お兄ちゃんのこと、好き?」
庄司くんの献身が、こんなに小さな弟君にもちゃんと届いていたことを知って。その彼の健気な兄への理解と思いを聞いて。そんな馬鹿げた質問が口をついて出ていた。
「もちろん!・・・たぶん、父さんや母さんがここにいても、こんなに色々やってくれなかったと思うし」
「そっか。じゃあ、よかったね」
庄司くんの献身は、両親がいない隙間を埋めるためのものだったろうけど、それはもうこの弟妹にはなくてはならないものになっていて。普通とは違っても、この家はちゃんと、「かぞく」の形をもっているんだと知った。
そんなことを考えていたからか、彼の更なる質問を、私は聞き間違えたのかと思った。
「ひとみねーちゃんは?」
「私?」
「ひとみねーちゃんは、にーちゃんのこと、好き?」
だって、かのじょなんじゃないの?という無邪気な質問に、私はハッと、冷水を浴びせられたような気持ちになって、我に帰る。
確かに、最近、庄司くんのことが気になっていて、彼のことを少しずつ知って、一緒にいる時間が増えて。彼の家族も私のことを受け入れてくれていて。
確かに、周囲から彼女だと見られても不思議ではないのかもしれない。
でも、私は、彼のことをどう思っているのだろう?
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