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第14話

『・・・ありがとう、じいちゃん』


思わず、といった様子で溢れた言葉と、頬を伝った一筋の滴は、あたしがみた中で、最後とも言っていい、まといくんの年相応の反応だった。でも、そんな反応は一瞬で。「二人にも会っていってください」と、親族の控室に下がるまといくんは、「ちょっとしたら伺おう」と返した父を前にしても、一人の成熟した男性の香りを仄めかせていた。


正直なところ、兄と折り合いが悪かった私は、いい叔母ではなかった。坊主憎けりゃなんとやらで、正直3人の兄弟のこともそんなに好きではなかったし、それが言外に伝わるのか、懐かれてもいなかった。


そんななか、大人顔負けの落ち着きで支援を引き出したまといくんに対して、生意気な子供だ、なんていう感情さえ抱いたほどだ。


『・・・父さん、支援なんか、よかったの』


そう父に尋ねる私の声は、誰が聞いても不機嫌だっただろう。まあ、当時は私も若く未熟だったということだろう。


『・・・わしが、親族の葬儀を初めて取り仕切ったのは、つい最近のことだ』


そう唐突に切り出した父の話に耳を傾ける。


覚えている。10年前くらいに、私の祖父、つまりは父の父が亡くなった時のことだ。父は、男ばかりの4人兄弟だったが、折り合いが悪く、家族と距離を置いていた。他の3人の兄が早逝した時も、理由をつけて出席しなかったほどだ。


そして、なんの因果か、自分の父親の葬儀を喪主として仕切ったものの。


『お前も覚えているかもしれんが、何から手をつけていいからわからんくてな。ひどいものだった。なんなら、墓の手配すらおぼつかなかったからな』


正直、兄の結婚式で何をスピーチしたかも覚えておらん、と言っていたのにはどうかと思ったのだが。


『わしも歳を食って、椎名の家の取りまとめ役として、威張り散らしてはいるがな。よくよく振り返ってみれば、わしほど家族のつながりというものを軽視してきた人間もおらん』


子供が不出来なのも、そのせいかもしれんなあ、とつづける父に、不出来で悪かったわね!とツッコミを入れたのを覚えている。


『それに比べて纏はどうだ。若いながらに、色々悩んだだろうが、形式としては金を介したやり取りだが、わしらと、家族としてのつながりを維持しようと心を砕いたのだろう。でなければ、わざわざ親族に準ずる格の控室なんかわざわざ取らんし、挨拶の順番も気を使わんさ。・・・そんなことは、わしには出来なんだし、お前たちに教えたこともなかった』


『纏は、わしの兄が働きに上京した時と、ちょうど同じくらいの歳じゃ。なんなら、バカ息子が結婚の報告に来た時より、腹がきまった顔をしておった。そんな覚悟で、捻り出してくれただろう最後の選択肢を、わしが拒否できるわけがなかろうよ』


正直にいえば、あたしにもピンと来ていなかった、家族としてのつながり。歳を経た父親にしかわからないこともあるのだろうが。きっと、何か納得したのだろう。そして、それは、一人何も言わず、しかし嬉しそうにしている母親も。


『・・・だって、纏くん、大変だったろうに、わざわざ私たちが好きなお茶とお茶うけを用意までしてくれているじゃない』


・・・確かに。両親のお茶は、二人が若い頃から愛飲している銘柄のものを、わざわざ買ってきたのだろう。堅物の父だが、お茶を飲むときは手ずから母のために用意してやるのが二人の日常だった。それを覚えていたのだろう。短い会談では決して使わないだろうに、急須やおかわり用のお湯まで用意されていた。


元孫との距離を計りかねていた両親にとっては、「覚えていますよ」というわかりやすいメッセージだったのだろう。


・・・まあ、あたしの分は、好みの飲み物ではなく、実家でよく出てくるジャスミン茶だったが。


いや、それも当然か。なんせ、あたしの好みがわかるほど、あたしは彼らと友好的な時間は過ごしてこれなかった。


『あの子なりのケジメだから、きっともう、おじいちゃん、おばあちゃんとは呼んでくれないと思うけど。舜や玲の助けにならなっていいっていうなら、短い余生、わたしたちもやり直すわ』


そう、どこか寂しそうに。それでも、救われたようにつづける母を見て、思ったのだ。


あたしも、やり直すことができるのだろうか、と。

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