第12話
かなみさんは、僕たちの通う高校で教師をしているから、生徒たちからは、随分としっかりとした人だと思われている。まあ、それは子供が教師というものに抱く漠然としたイメージもあるのだろうけど、学校でのかなみさんは授業もわかりやすいし、生徒の相談にも親身に対応してくれるともっぱらの噂なので、ある意味ではそういう感想やイメージを持つのは当然と言えるかもしれない。
一方で、彼女は結構、子(?)煩悩なところがあって、舜や玲、ついでに僕の周囲に対しては随分と甘い。特に、比較的同世代の生徒たちと比べて違った種類の責任感を感じて毎日を過ごしている僕に対して、「高校生らしさ」みたいなものを過剰に求める傾向がある。
去年の文化祭で僕が委員を引き受けたのも、舜たちを連れていきたいと思ったことももちろん理由の一つではあるのだけど、かなみさんからの希望を無碍にできなかった、というところも大きいのだ。
そんな彼女だから、我が家にクラスメイトの女の子が遊びにきて、一気にテンションが上がってしまったのも、致し方ないことだと思う。
でも、だからと言って。
「・・・かなみさん、無理言っちゃダメだよ」
「え、だめかな?」
すごく不思議そうに水瀬さんに訪ねる彼女。水瀬さんは、とんでもない、と同意の意思を見せてくれているが・・・これは、彼女の優しさとは別の次元での問題である。
「そもそも、水瀬さんのご両親に説明できないでしょ」
うちは、まともな家庭じゃないんだから。まあこの本音は、普段気にかけてくれているかなみさんに対して、あまりに無神経だと思うから口にしないが。
例えば、僕がもう少し奔放だったりしたら違ったのかもしれない。でも、生憎と、舜と玲の誇れる兄であるためにも、そう言ったところで適当なことはしたくない。そうでなくても、僕は水瀬さんをかなり気に入っているし、そのご家族に対しても、筋を通したいと思っている。
もし、例えばかなみさんが僕の本当の母親だったとしたら、話は違うのだが、娘の通う高校の教師から、正式には血のつながりのない男子高校生の家に泊める、という連絡なんか来た日には、まともな親ならパニックになる。僕も自分で考えていて、状況の意味がわからなすぎるし。
たとえ彼方のご両親が、取り乱さなかったとしても、そういった友人との関わりは考え直してほしいと思うことだろう。
僕は、周囲に支えられて生きていられているが、それは僕がある程度、身の程をわきまえた振る舞いをしているから、表面上周囲と同じように扱ってもらえているのだ、ということを忘れてはいけない。どうしても、普通のご家庭と同じ感覚ではできないことが存在するのは、仕方のないことなのだ。
僕の言外の主張をちゃんと汲み取ってくれたのか、その後の夕食ではかなみさんのトーンは一段階落ち着いたものになっていた。
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「帰りは、あたしが水瀬さんをそこまで送っていくから!」
庄司くんの手作りの夕食をご馳走になったあと、そんな椎名先生の提案で、私たちは、自宅へ続く通りを一緒に歩いていた。
庄司くんが作った夕食は美味しかった。今日は子供たちが好きだというカツカレーだったのだが、私たち大人組とはちょっと味付けも変えているようで、二人のことを本当に大切にしているのがよくわかった。何より、私というイレギュラーがいる中で落ち着かないだろうに、率先してお手伝いをしていた様子を見て、二人も庄司くんの愛情をしっかりと受け止めているのだ、と温かい気持ちになった。
こうして見送りを買って出てくれた椎名先生も、庄司くんたちとの具体的な関係はよくわからないものの、家族の一員として、その役割を全うしているのだろう。
それでも、やっぱり、庄司くんが置かれている状況は、普通の生徒とはちょっと違って。
「ねえ、水瀬さん。おうちに帰るまで、少し時間ある?ちょっと、そこのベンチで話せないかな。」
そう、真剣な顔で、問いかける先生の言葉に。私はすぐに頷いたのだった。
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