第11話
僕たち兄弟が住んでいるのは、2LDKの賃貸だ。築年数は20年以上と古いものの、鉄筋で建てられているため、別に建物自体は全く問題ない。繁華街からは離れているため、家賃自体も手頃で、8万円台で抑えられている。
出版社でのレビューと、そのほか下読みなどで月あたり10万円弱をなんとか稼げており、母親の残したお金を毎月取り崩しながらではあるが、舜と玲をようやく食べさせている。ただ、出版社でのアルバイトは、榎本さんが気を利かせて、仕事量の割に高い報酬を払ってくれているので、周りの皆さんに随分と支えられて、この生活が成り立っている。
その中でも、最も僕たちを支えてくれているのが、いま、僕と水瀬さんの前に座って腕組みをしているこの女性、椎名かなみさんだ。
「・・・おかえりなさい、まといくん。水瀬さん、よね?こんにちは」
「こんにちは、椎名先生、ですよね・・・?」
「ただいま、かなみさん。今日はこっちだったんですね」
「かなみさん・・・?庄司くん、椎名先生とどういう関係なのかな?」
「うふふ・・・まといくんとはただならぬ関係よ・・・」
「・・・!?ただならぬ・・・?」
・・・僕たちが帰宅したリビングで、舜と玲を足元で遊ばせながら、あっという間に空間を混沌に陥れたこの女性こそ、椎名かなみさん。苗字から察する向きもあるだろうが、僕の元、父親の妹である。父親とは現在距離を置いてしまっているが、その仲立ちをしてくれているのがこの女性だ。
先生と呼ばれる通り、僕たちの高校の社会科目担当教員である。僕の元父親も含め、学者の家系であるらしい。学校での細かい対応や、成人の後見人が必要な場面で力を貸してくれている。
彼女は、特に、血のつながっている舜と玲に目をかけてくれているので、たまにこうして遊びに来てくれる。その度に色々なお菓子やおもちゃを買ってきてくれるので申し訳ないのだが、舜や玲は喜んでいるようだ。
「もう、おうちでは、かなみって呼び捨てにしてって言ってるじゃない」
誠に遺憾ながら、僕は元父親の性格を多分に受け継いでいるようで、会話に愉快犯的な遊びを求めてしまうのは、そのせいであると思っている。そして、かなみさんも、その妹として、その影響を大きく受けているのだ。
水瀬さんからは随分と冷たい視線を浴びせられてしまっているが、かなみさんが学校の外では非常にフレンドリーなのは今に始まった事ではない。ただ、僕としては血も繋がっておらず、どちらかというと罪悪感の方が強いので、曖昧な愛想笑いを返すしかないところなのだが。
「・・・はあ」
「何かしら、まといくん。あたしの前でこれみよがしにため息なんてついて」
「まあ8割方、かなみさんのせいですけどね」
いつまでもこうしてもいられないので、舜と玲が水瀬さんに気づいて騒ぎ出す前に、事態の収集を図る。
「こちら、知ってると思うけど、椎名かなみさん。元父親の妹さんで、舜や玲の後見人をしてもらってる。あとは、学校の先生だし、校内での保証人かな」
「・・・もう、まといくんは他人行儀ねえ〜」
「それは、すみません。それで、こちらがクラスメイトの水瀬さん。明日、玲が友達を呼んでお菓子作りするんだけど、その先生役としてお手伝いしてもらうんだけど、玲と初めてだと大変だろうから、顔合わせってことで夕飯に招待したんだ」
「お邪魔します・・・」
「あら、そうだったの。まといくんと付き合ってるのかと思ったわ」
「・・・いえ、いや、まだそんなこと・・・!」
「職業柄、不純異性交遊には注意しなきゃいけないんだけど、個人的には応援するわよ〜」
「先生、それは、えっと・・・」
顔を真っ赤にした水瀬さんを見て、面白いものを見つけたという笑顔で揶揄い始めたかなみさん。遺憾ながら、やはり僕と同じ会話スタイルである。
まあ、元父親の存在を除いても、かなみさんと関わって、もう長いのだ。だから、こう言う時に彼女が何を言い出すかくらいはわかる。
「あ、そうだ!水瀬さん、今日、お夕飯だけじゃなくて、泊まっていってよ!」
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