1,婚約破棄ですがお好きにどうぞ
第1話です。できたら次話は明日投稿です。
「ワタシ、真実の愛を見つけたの!だからあなたとの婚約は破棄するわ!」
そう、ジーク伯爵家の応接間で高らかと宣言したのは僕、アレイ・ジークの婚約者であり、アストレア王国のマリアベル・アストレア王女殿下だ。
しかし僕の気持ちは動揺したりショックを受けるどころか、驚くほど冷めたものだった。初めから恋愛感情などなく、それなりの財力と名声があったジーク伯爵家との政略結婚。
それよりも僕は相手が気になった。婚約をしていると知っていながら男女関係にあったのだから心臓に毛が生えているような人物なのだろうか。
「わかりました。それで、お相手の方はどちらなのでしょうか?この場にはいらっしゃらないようですが」
婚約者を譲れと言うのなら来るのが常識ではないだろうか。そんな僕の心中を知ってか知らずか、かつての婚約者は「来ない」と言いきった。
「相手はシュノシュワ侯爵家のラインハルト様よ!既に婚約者とも別れているしあなたより地位が上なのよ。断るなんてことしないわよね?」
わかったと言ったではないか。
しかも婚約者から略奪か。
「断るなんてとんでもない。私はあなた様のご意志に従うまでですので」
感情を殺し、人当たりの良い笑顔を浮かべる。それだけで、甘やかされて育ったマリアベルは満足するのだ。
「婚約破棄をした理由がワタシの心変わりだと知ったら王国の権威は下がるしワタシが悪く言われるかもしれないし、理由はこっちで考えるわ!」
「かしこまりました」
すごく、とてつもなく嫌な予感がしなくもないが逆らえば面倒なことになるのは長年の経験からわかっているので素直に頭を下げた。
頭の悪いマリアベルのことだ、なんとかなるだろう。
それに妹のメルレイン(僕はメルと呼んでいる)も両親が健在のときに婚約していて相手はアストレア王国第4王子のヴィンセント殿下。大惨事にならないはずだ。
両親が健在のときと言ったが、僕の母は隣国のアレル王国出身で、僕も8歳までアレル王国に住んでいた。そんな僕がアストレア王国にいるわけは父の不倫が原因だ。離婚後、母はアストレア王国の伯爵子息と再婚した。それが今の父だが2人は馬車でメルの婚約パーティーのためにドレスを選びに行ったまま、帰ってくることはなかった。
途中で第1王子派の貴族が回した者に暗殺されたそうだ。両親は騎士を目指す第1王子ではなく、力より頭を使う第2王子の後ろ盾となっていた。ウチは権力を持っていたから第2王子の自滅を狙って両親を殺したと供述したそうだ。
そこからが酷かった。両親の葬儀に遅れてきた叔父一家は無遠慮に入ってきてその場を仕切り周りも有能な人間の親族だから有能に違いないという甘い考えで叔父に従った。
屋敷に居座り領主として治める立場に座った叔父は仕事をほっぽ投げてアンティーク家具を売り払い、魔道具を買った。婦人はドレスや宝石に金を注ぎ込み遊び呆け、そんな親の元で育った娘ビアンカが我儘に育たないはずもなく、数々の夜会に出席し、メルの婚約者を奪おうした。
後からわかったがメルのために贈られた手紙や夜会のドレスもメルが気づくより先にビアンカに奪われたそうだった。手紙は燃やされドレスはビアンカ好みの派手なデザインに様変わり。
僕らは領主代行をやらされ、夜会に参加することもほとんど許されず、屋根裏部屋に2人で閉じ込められていた。領主代行であげた手柄も横取りされていたため、周りは叔父を有能だと褒め、僕を無能でお荷物な存在と罵った。
エスコートを受けてもらえないヴィンセント殿下はメルが自分を嫌っていると勘違い、ずっとすれ違っていた。それはいつしかメルが不貞をはたらいているという噂になり、遂には重要な夜会以外でエスコートを申し出ることはなくなった。それをメルは嫌われていると勘違いするという大変なことになっていた。
ここまで実家にも王家にも尽くしてきた。
その結果が浮気で婚約破棄。しかも罪をなすりつける気でいるそうではないか。
ああ、僕はこれからも家に使われるだけの道具になるんだろうな。
しかしその必要はなくなったようだ。まあそれは後で説明しよう。
「それでは、王女殿下。どうかお相手の方とお幸せに」
僕は表情筋をフル活用して嫌味たっぷりの王子様スマイルを浮かべて退出した。
読んでいただきありがとうございます。